講演情報

[P22-2-4]NBIが診断に有効であった粘膜下腫瘍様の形態を示した肛門管扁平上皮癌の1例

田村 周三, 菅又 奈々, 久保田 和, 金澤 周, 左雨 元樹, 森本 幸治, 小泉 博岐, 大塚 新一, 久保田 至 (西新井大腸肛門科)
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【症例】症例は65歳の女性.2024年4月肛門部痛を主訴に当院受診.直腸肛門診を施行したところ,肛門左壁に径2cmの有痛性の腫瘤を触知した.肛門直腸部の腫瘍を疑い同月下部消化管内視鏡検査施行.歯状線を中心とした直腸Rbから肛門管の左壁に,中心が僅かに陥凹した2cmの粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.直腸反転像では隆起した局面の大半は正常粘膜に覆われていたが,NBIによる観察で一部に上皮内血管ループの形態変化を認めた.形態変化は食道扁平上皮癌におけるJES分類(Japan Esophageal Society Classification)のB1やB2に類似しており,JES B1様の部位から生検を施行した.病理では扁平上皮癌の存在が指摘され,大腸粘膜には異型を認めなかった.これらより肛門管扁平上皮癌と診断し,精査加療目的に高次医療機関へ紹介となった.【考察】肛門管癌は比較的まれな腫瘍であり,全ての下部消化管悪性腫瘍のうち4%程度とされ,本邦では全悪性腫瘍のうち新規発生率は0.10%,5年有病率は10万人あたり2.7人と報告されている.組織学的には欧米では肛門管悪性腫瘍の70%程度が扁平上皮癌で腺癌は20%程度とされているのに対し,本邦では70%程度が腺癌で20%程度が扁平上皮癌と報告されている.肛門管扁平上皮癌は女性優位(本邦の報告で男性30%,女性70%)であり,発症にはHuman papilloma virus(HPV)が関与している事が知られている.本症例も女性であり,免疫染色によりHPV関連の扁平上皮癌であったことが示唆された.NBIを利用した肛門管扁平上皮癌の診断については,上皮内癌などの早期の病変に対する報告が目立ち,JES分類の血管形態変化との類似性に言及したものも多い.本症例は上皮内癌ではないが腫瘍の表面への露出が少なく,生検部位の選定がしにくい病変であったが,JES分類を参考とした生検を行うことで効率的に診断を行うことができた.本邦の肛門管扁平上皮癌の肉眼型は,比較的病変が明瞭であるType1,2,3以外のものが30%程度存在すると報告されており,また肛門管は解剖学的に観察のしにくい部位でもあるため,NBIの活用は肛門管扁平上皮癌の見落としの予防や効率的な診断を行う上で有用であると考える.