講演情報

[P9-1-4]高度肥満患者のS状結腸憩室穿孔に対し,2度の腹腔内ドレナージを施行した1例

池谷 哲郎, 佐竹 應登, 嶋田 泰尚, 村橋 邦康 (大阪掖済会病院外科)
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症例は26歳男性.右下腹部痛,発熱を主訴に近医へ救急搬送.CTにてS状結腸周囲にfree airを認め,S状結腸憩室穿孔による汎発性腹膜炎の診断にて当院へ転院となり,同日に緊急手術を施行した.人工肛門造設を想定していたが,身長182cm,体重170Kg,body mass index(BMI)51Kg/m2と高度肥満であり,腸間膜が肥厚し,炎症の影響で短縮もしていたため,横行結腸及びS状結腸の可動性が極めて不良であった.回腸末端での人工肛門造設も試みたが,腸間膜に加え,皮下脂肪も厚く,腸管を体外へ誘導することは困難であった.幸い,穿孔部は腸間膜や脂肪垂にて被覆されており,腹腔内の便汁汚染もほぼなかったため,生理食塩水にて洗浄後,穿孔部近傍と骨盤底にドレーンを留置し,手術を終了した.術後6日目より水分を開始したが,炎症所見と腹部所見の悪化を認めたため,再度絶飲食とした.症状は安定していたが,術後19日目に腹痛が再燃し,CTにてfree airの増加も認めたため,再手術の方針とした.しかしながら,直腸S状部の浮腫性変化が強く,断端の縫合不全リスクが高いと判断し,ハルトマン手術は断念せざるをえなかった.また初回手術時と同様に皮下脂肪が厚く,定型的な人工肛門造設は困難であった.今回も腹腔内の汚染は軽度であったため,穿孔部近傍に2本のドレーンを留置,さらに経肛門的にドレーンも留置し,手術を終了した.再手術後33日目に水分を再開したが,炎症の再燃を認めたため,再度絶飲食管理とした.再手術後60日目に水分を再開し,その後は段階的に食事摂取可能となった.経過中に胆嚢炎やcovid19感染症を発症したが,初回手術後135日目に軽快退院となった.結腸憩室炎の穿孔症例は人工肛門造設術を行う症例がほとんどである.今回は想定以上の高度肥満患者であったため,定型通りの手順では対応できず,治療に難渋した.本症例は人工肛門造設することなく治癒し得たが,今回の経験を踏まえ,高度肥満患者に対する憩室炎穿孔の治療について文献的考察を含め,検討を行う.