講演情報

[SP1-6]女性医師が仕事も家庭も充実させて生きていくことが普通になる社会へ

野村 幸世 (星薬科大学医療薬学研究室)
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外科領域も含め,女性医師の割合,数ともに増加の一途にある.人口の半分は女性であることを鑑みると,これは非常に喜ばしいことである.加えて,「他人の世話をする」ことを得意とする人の割合が高いと思われる女性が医療という職業を選ぶことは本人にとっても社会にとってもメリットのあることであるし,女性患者さんの気持ちを考えると女性医師の存在はとてもありがたいものと思う.そこで,医師となった女性にはぜひ,活躍していただきたいと同時に,次世代育成の要である出産,子育てにもぜひ従事していただきたいものである.
 しかし,医療の現場では,「東京医大問題」にみるごとく,未だに平然と女性差別が行われている.低俗と言わざるを得ないことであるが,放置することはなおさらよくないことである.それゆえ,私たちは,子育てをしている消化器外科女性医師が中心となり,「消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)」を2015年に立ち上げた.この会の目的は「男女共同参画の理念に基づき,女性医師・研修医・医学生の消化器外科領域への参画を促進し,女性消化器外科医のキャリアの継続,活躍の場を広げる.」というものであり,実践的には,スキルを磨く上では手術への参画が必要な外科領域において,手術への参画も差別され,また,同様かそれ以上の業績を上げても女性医師は昇進へと繋がりにくい医療現場を変えていこうとするものであった.
 AEGIS-Womenの活動も一助となり,日本消化器外科学会では,女性理事,評議員女性枠を設けるに至り,この動きは日本外科学会にも拡がっている.AEGIS-Womenとしての大きな成果の一つとしては,2022年に出版した2つの論文が挙げられるであろう.現会長の河野らによるSurgical Experience Disparity Between Male and Female Surgeons in Japan. JAMA Surg. 2022と現副会長の大越らによるA comparison of short-term surgical outcomes of male and female gastrointestinal surgeons in Japan:retrospective cohort study BMJ 2022である.前者は女性消化器外科医が結婚,出産などのライフイベントに到達していないと思われる年代からずっと手術件数において男性外科医よりも少なく,トレーニングの機会は女性であるというだけで差別されている,さらに,この差は高難度手術になるほど顕著であることを報告した.後者は,それにもかかわらず,男女消化器外科医の術後短期成績は差がなく,むしろ,術後短期死亡は女性外科医が執刀した方が少ない傾向にあることを報告した.
 2024年4月から施行された医師の働き方改革も,長時間病院にいることが評価される風潮を改善することに効果があると思っている.ただ,上記の論文に見るごとく,男女差別はその家庭へのエフォートの差によって起こっているのではなく,上司の扱いの不平等によって起こっていることろが大きいことを忘れてはいけない.上司となるものの公正さと社会の進歩に対する柔軟な追従が要求されるものである.しかし,色々な人間が存在することは変えられるものではなく,上司にも色々な人間がいる.本人は公正に行なっているつもりでも,部下から見たら公正でないことも多々起こっている.このような状態がハラスメントなどに簡単に認定されれば良いが,そのための労力も大変なものである.解決策としての一つの提案としては,人員の移動をもっと自由にできないか,ということである.アメリカの社会を参考としているが,医局間の移動,病院間の移動をよりスムーズに,本人の業績や実力評価,人格に関する推薦などで,個人として移動できたらもう少し消化器外科業界も自由競争が成り立ち,ハラスメントなどが減少するのではないかと思う.今後の世代の采配に期待したい.