講演情報
[EL1]大腸内視鏡検診への期待と精度管理の重要性
小林 望 (国立がん研究センター中央病院検診センター)
1992年より,40歳以上の全国民を対象に免疫便潜血検査による対策型大腸がん検診が開始されたが,近年の大腸がんの年齢調整罹患率は横ばい,死亡率はわずかな減少傾向にとどまっており,さらなる対策が求められている.その一方で,日本より遅れて便潜血検査による対策型大腸がん検診を開始した台湾や韓国では,すでに大腸がん死亡率の減少を達成しており,明暗が分かれる結果となっている.我が国における大腸がん検診が十分に機能していない原因として,検診が“やりっぱなし”になっていることが挙げられる.検診プログラム自体が国レベルで統一されておらず,各実施主体(市町村,事業者,保険者など)の裁量で独自の検診を行うことが許容されている点も大いに問題ではあるが,それ以上に,検診に関するデータが系統的に登録されておらず,対象者が誰なのか,検診結果はどうであったのか,精密検査を受診したのか,そしてがんは発見されたのかといった重要なデータが把握されていない.そのため,検診が本当に有効であったのか検証もされておらず,またデータがないために精度管理によって検診の質を向上させることもできないまま,漫然と検診が行われている.第4期がん対策推進基本計画にも,統一されたプログラムのもとで適格な対象集団を設定し,その対象者に個別に勧奨する「組織型検診」の実現を目指すことが明記されており,現行のがん検診をより有効性の高いものに変えていくことが喫緊の課題である.
より効果的な大腸がん検診を実現するために,大腸内視鏡検査の対策型検診への導入に期待する声も多い.特に米国では,6割程度の国民が大腸内視鏡検診を受診しており,そのことが大腸がん死亡率の低下に大きく貢献していると言われている.大腸内視鏡検査を受診することによって大腸がんの罹患・死亡が抑制されることは複数の症例対照研究やコホート研究ですでに証明されているが,受容性なども含めた対策型検診という大きな枠組みでのエビデンスは限定的であり,現在進行中のランダム化比較試験の結果が待たれる.しかし,仮に大腸内視鏡検診を導入するとなれば,その体制構築にはかなりの時間を要することが予想されるため,導入に向けての議論は今から始めておく必要がある.大腸内視鏡検診を導入する場合,まずは対象者と検査間隔(回数)を決める必要がある.対策型検診として大腸内視鏡を導入しているドイツやポーランドでは,50歳代から60歳代前半を対象に,生涯で1回もしくは2回の検査を提供しており,個々人の利益ではなく集団における死亡率減少を目指す対策型検診としては,妥当な設定と思われる.当然,大腸内視鏡検査受診歴がある場合には対象から外すべきであり,検診だけでなく診療データも包括的に利用できるような枠組みが必要である.また大腸内視鏡は他の検診法と比べて侵襲性が高い検査であり,不利益を最小化するためにも,より厳密な精度管理を行う必要がある.胃内視鏡検診では医師会所属のクリニックが主体となった体制を構築している自治体が多いが,二重読影のできない大腸内視鏡検診においては,ある程度の症例数を有する施設の熟練医を中心とした検査体制を構築し,盲腸挿入率,ADR,合併症率などを定期的にモニタリングする必要がある.また精度が不十分な施設に対する指導も不可欠であり,検診の精度管理を通じて,国内の内視鏡検査の精度向上が達成できる可能性もある.
大腸内視鏡検診を導入するためには,検診・診療データの包括的な利用が大前提であり,そのためのシステム構築を最初に行う必要がある.その上で,限られた医療資源である大腸内視鏡を効率的に国民に分配するという大きな視点から制度設計を行えば,日本の大腸がん死亡率は海外並みに減少することが期待される.
より効果的な大腸がん検診を実現するために,大腸内視鏡検査の対策型検診への導入に期待する声も多い.特に米国では,6割程度の国民が大腸内視鏡検診を受診しており,そのことが大腸がん死亡率の低下に大きく貢献していると言われている.大腸内視鏡検査を受診することによって大腸がんの罹患・死亡が抑制されることは複数の症例対照研究やコホート研究ですでに証明されているが,受容性なども含めた対策型検診という大きな枠組みでのエビデンスは限定的であり,現在進行中のランダム化比較試験の結果が待たれる.しかし,仮に大腸内視鏡検診を導入するとなれば,その体制構築にはかなりの時間を要することが予想されるため,導入に向けての議論は今から始めておく必要がある.大腸内視鏡検診を導入する場合,まずは対象者と検査間隔(回数)を決める必要がある.対策型検診として大腸内視鏡を導入しているドイツやポーランドでは,50歳代から60歳代前半を対象に,生涯で1回もしくは2回の検査を提供しており,個々人の利益ではなく集団における死亡率減少を目指す対策型検診としては,妥当な設定と思われる.当然,大腸内視鏡検査受診歴がある場合には対象から外すべきであり,検診だけでなく診療データも包括的に利用できるような枠組みが必要である.また大腸内視鏡は他の検診法と比べて侵襲性が高い検査であり,不利益を最小化するためにも,より厳密な精度管理を行う必要がある.胃内視鏡検診では医師会所属のクリニックが主体となった体制を構築している自治体が多いが,二重読影のできない大腸内視鏡検診においては,ある程度の症例数を有する施設の熟練医を中心とした検査体制を構築し,盲腸挿入率,ADR,合併症率などを定期的にモニタリングする必要がある.また精度が不十分な施設に対する指導も不可欠であり,検診の精度管理を通じて,国内の内視鏡検査の精度向上が達成できる可能性もある.
大腸内視鏡検診を導入するためには,検診・診療データの包括的な利用が大前提であり,そのためのシステム構築を最初に行う必要がある.その上で,限られた医療資源である大腸内視鏡を効率的に国民に分配するという大きな視点から制度設計を行えば,日本の大腸がん死亡率は海外並みに減少することが期待される.