講演情報

[SP2-2]医師の働き方改革:現場の挑戦と制度の展望

藤川 葵 (聖路加国際病院一般内科(元厚生労働省医政局医事課))
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令和6年4月より,医師に対する時間外・休日労働の上限規制が開始された.医師の健康と医療の質・安全を確保するため,地域医療の確保等,やむを得ず年960時間を超える労働を医師にさせる医療機関は,都道府県から指定を受ける必要がある.この指定を受けるには,医療機関勤務環境評価センターの評価が必要だが,令和5年3月時点でこの評価を受審した医療機関数は500弱に留まった.評価受審が少ない理由は,医療機関が医師の労働時間管理を進めた結果,在院時間すべてが労働時間とみなされなくなったことにある.平成30年に,厚生労働省から全国の医療機関に向け,緊急的に「医師の労働時間管理の適正化」等が呼びかけられるほど,医療機関における医師の労務管理が不確実であった背景もあり,制度施行までに,労働時間の上限規制に適用できるような労務管理体制を構築することが大多数の医療機関の最低目標であった.このため,令和3年以降,各医療機関は研鑽の労働時間該当性や,宿日直許可を受けた業務に携わる時間等を勘案し,医師の労務管理体制を整備し,労働時間を精緻に計上し始めた.さらに,一部の医療機関では,カンファレンス改革や医療DX,タスク・シフト/シェア推進により,医師の労働時間短縮がさらに推進したのも事実である.
 医師の働き方改革には院長のリーダーシップにより,適切に法令順守を行いつつ,具体的な改革の推進には,中堅世代の医師の率先した現場の目線が不可欠である.中堅世代の医師は現場を最もよく知り,改革を起こすのに最適である人材であるためだ.しかし,この世代の医師はライフイベントの変化も多く,臨床,研究,教育,給与,趣味,家族,自身の健康等,人生におけるこれらの優先順位に迫られることも多い.この世代が今の働き方のせいで生きづらさを感じ,いr現場を離れることを選択する者が多くなると,2040年までに高齢者は増加するにも関わらず,将来的な医療提供体制の維持が困難になる可能性がある.未来を担うすべての医師たちのためにも,国,自治体,大学,医療機関,そして国民に課せられた様々な課題を,歩みを止めることなく解決していかねばならない.
 少子高齢化・人口減少社会における医療は,地域住民,医療機関,行政の連携が重要である.今回の発表では,最新の行政情報と医師の働き方改革をめぐる課題を論じるほか,医師のウェルビーイングと地域医療の充実に向けて挑戦を続ける現場の取組を紹介する.