講演情報
[EL6]ctDNAによるリキッドバイオプシーが変える大腸癌診療
沖 英次 (九州大学大学院消化器・総合外科)
進行大腸癌には化学療法を含めた集学的治療が必要であり,局所進行癌の場合には病理学的進行度を参考に術後の補助療法の適応が決定されてきた.しかし病理学的進行度だけでは,本当に集学的治療が必要な集団を選別しているとは言えず,治療強度を高めても,今以上に大腸癌の生存率を改善させることは難しい.リキッドバイオプシーによるCirculating DNA(ctDNA:血中微量遊離がん由来DNA)の検出は,末梢循環血液中に存在する残存病変(MRD:Minimal residual disease)検出の意義があり,周術期治療の層別への応用が期待されている.本邦では,複数の介入試験を含む大規模研究(CIRCULATE-Japan)から以下のような多くの知見が得られつつある.
1)結腸癌の術後予後予測と術後補助療法の感受性予測
再発高リスクのStage II,もしくはStage IIIの結腸癌では術後にmFOLFOX6もしくはCAPOX療法の併用療法が行われる.しかし,実際にはStage Iでも再発することもあれば,Stage IIIで術後補助療法をしなくても再発しない症例は多く存在する.ctDNAは,血漿中の半減期が2時間以内と腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)等と比較して極めて短く,根治的治療後は,癌の残存がなければ血中から速やかに消失する.GALAXY試験(CIRCULATE-JapanのRegistry)の中間解析では(Nature Med 2023),術後4週時点で血中循環腫瘍DNA陽性は,陰性と比較して,再発リスクが著しく高く,術後4週時点でctDNA陽性の場合,術後補助化学療法を受けなかった症例と術後補助化学療法を受けた症例で再発リスクが大きく異なることが報告された(HR 6.59,P<0.0001).一方,術後4週時点でctDNA陰性例では,術後補助化学療法を受けても受けなくても統計学的な有意差は認められなかった(HR 1.71,P=0.16).この結果から,術後にctDNAを測定することで,大腸がん患者の再発リスクに応じた術後補助化学療法の選択ができることが期待される.現在術後補助療法をctDNAの結果に応じてEscalationする試験(ALTAIR試験)とDe-escalationする試験(VEGA試験)が既に登録を終えている.
2)直腸癌の周術期治療への応用
局所進行直腸癌は結腸癌と異なり,海外では術前に放射線治療が標準的に行われている.最近では,放射線療法と薬物療法を効果的に組み合わせるTotal neoadjuvant therapy(TNT)療法が行われるようなり,奏功率や予後が向上している.直腸癌では肛門温存が重要なtreatment decisionになることもあるため,術前治療が奏功した症例は手術をせずに経過観察を行うno operative management(NOM)も重要な選択肢となりつつある.しかし画像上のレスポンスを正確に評価してNOMの判断することは容易ではない.この分野にもctDNAの活用が期待されている.通常の画像評価に加えてctDNAによる癌細胞の残存を評価し,定期的にフォローすることにより適切な時期に手術をおこなう,もしくはNOMの判断の補助になり得ることが期待されている.CIRCULATE-JAPAN内でも前向きの検討が行われている.
3)内視鏡的粘膜切除術への応用
内視鏡的粘膜切除術(ESD:endoscopic submucosal dissection)は早期大腸癌の治療としてすぐれた方法である.しかし時に非治癒切除となり,そのような症例ではリンパ節郭清をともなう追加切除が必要となる.しかし多くの症例では残存癌細胞は観察されず,これらの追加手術はオーバーサージェリーになっている可能性がある.CIRCULATE-JAPAN内でも,大腸癌のESD後に,非根治となった症例を登録し,追加外科的手術後のリンパ節転移の有無とctDNAの結果を検討する観察研究が行われている.この研究によりctDNAの陽性率とリンパ節転移率の関係が明らかになれば,ctDNAがESD非根治例の追加切除の決定への補助的診断になる可能性がある.
1)結腸癌の術後予後予測と術後補助療法の感受性予測
再発高リスクのStage II,もしくはStage IIIの結腸癌では術後にmFOLFOX6もしくはCAPOX療法の併用療法が行われる.しかし,実際にはStage Iでも再発することもあれば,Stage IIIで術後補助療法をしなくても再発しない症例は多く存在する.ctDNAは,血漿中の半減期が2時間以内と腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)等と比較して極めて短く,根治的治療後は,癌の残存がなければ血中から速やかに消失する.GALAXY試験(CIRCULATE-JapanのRegistry)の中間解析では(Nature Med 2023),術後4週時点で血中循環腫瘍DNA陽性は,陰性と比較して,再発リスクが著しく高く,術後4週時点でctDNA陽性の場合,術後補助化学療法を受けなかった症例と術後補助化学療法を受けた症例で再発リスクが大きく異なることが報告された(HR 6.59,P<0.0001).一方,術後4週時点でctDNA陰性例では,術後補助化学療法を受けても受けなくても統計学的な有意差は認められなかった(HR 1.71,P=0.16).この結果から,術後にctDNAを測定することで,大腸がん患者の再発リスクに応じた術後補助化学療法の選択ができることが期待される.現在術後補助療法をctDNAの結果に応じてEscalationする試験(ALTAIR試験)とDe-escalationする試験(VEGA試験)が既に登録を終えている.
2)直腸癌の周術期治療への応用
局所進行直腸癌は結腸癌と異なり,海外では術前に放射線治療が標準的に行われている.最近では,放射線療法と薬物療法を効果的に組み合わせるTotal neoadjuvant therapy(TNT)療法が行われるようなり,奏功率や予後が向上している.直腸癌では肛門温存が重要なtreatment decisionになることもあるため,術前治療が奏功した症例は手術をせずに経過観察を行うno operative management(NOM)も重要な選択肢となりつつある.しかし画像上のレスポンスを正確に評価してNOMの判断することは容易ではない.この分野にもctDNAの活用が期待されている.通常の画像評価に加えてctDNAによる癌細胞の残存を評価し,定期的にフォローすることにより適切な時期に手術をおこなう,もしくはNOMの判断の補助になり得ることが期待されている.CIRCULATE-JAPAN内でも前向きの検討が行われている.
3)内視鏡的粘膜切除術への応用
内視鏡的粘膜切除術(ESD:endoscopic submucosal dissection)は早期大腸癌の治療としてすぐれた方法である.しかし時に非治癒切除となり,そのような症例ではリンパ節郭清をともなう追加切除が必要となる.しかし多くの症例では残存癌細胞は観察されず,これらの追加手術はオーバーサージェリーになっている可能性がある.CIRCULATE-JAPAN内でも,大腸癌のESD後に,非根治となった症例を登録し,追加外科的手術後のリンパ節転移の有無とctDNAの結果を検討する観察研究が行われている.この研究によりctDNAの陽性率とリンパ節転移率の関係が明らかになれば,ctDNAがESD非根治例の追加切除の決定への補助的診断になる可能性がある.