講演情報
[EL5-1]多発痔瘻に対する手術
佐原 力三郎 (牧田総合病院)

痔瘻の手術治療に向かうときにいつも悩むのは根治性と機能温存性のバランスである.もちろん皮下痔瘻や肛門後方に位置する浅くて短い単発の低位筋間痔瘻に対しては切開開放術を適応しても両者を両立することは可能である.しかし前方や側方に位置する低位筋間痔瘻や後方であっても深い痔瘻に対して切開開放術を選択するには慎重にならざるを得ない.開放術による根治性を確保していくと機能温存性が失われていくからである.痔瘻は治癒したとしても肛門の変形,肛門括約筋機能低下,肛門管内難治創の残存などを経験することが少なくないからである.従って一気に開放しないほうが良いと評価した痔瘻に対しては括約筋温存手術やシートン法(痔瘻結紮療法)を適応することになる.すると今度は括約筋温存術後の再発や治癒遷延,シートン法術後における緊縛時の疼痛コントロールや治癒期間の長期化が悩ましくなってくる.
単発の痔瘻でも以上のような問題点を含んでいる手術治療法であるが,これが多発痔瘻となるとその手術方法は個々の痔瘻に対して慎重な対応が必要となる.多発痔瘻とは原発口がそれぞれ異なる2本以上の活動性の痔瘻のことで有り,二次口の數で診断するものではない.演者の経験では最大7本の多発痔瘻を経験している.一度にすべての痔瘻に対する手術をするのか,複数回に分けて手術するのか,それぞれの痔瘻の特性を考慮して開放術,括約筋温存術,シートン法等を混在させて適応するのか,多発する痔瘻の数が多くなればなるほど悩むこととなる.
一方多発痔瘻は初発から多発痔瘻ではなく,はじめ単発であった痔瘻が放置により2本3本と複数生じてくる傾向がある.6本,7本になってから初めて医療施設に受診する例もある.そのような症例に初発からの経過を聴取すると時間をかけて1ヶ所ずつ増えてきたことが判明する.一斉に生じた病変ではないのである.活動性のある痔瘻を放置すると痔瘻癌になるリスクは臨床の場面で強調されているが,多発化していくリスクについてはあまり触れられていないように思われる.演者は術前の手術適応を説明するときに放置による多発化を挙げるようにしている.単発の痔瘻においても内肛門括約筋レベルの筋繊維の硬化が肛門狭窄を来たし,原発口以外でもanal cryptのdeep化が進み新たな痔瘻の発生へと経過していくように思われる.低位筋間型のみならず深部痔瘻との合併も決してまれではない.
そのような背景から多発痔瘻の症例では著明な肛門狭窄を呈していることが多く,その肛門管内環境を一気に是正しなければ新たな痔瘻発生のリスクを排除することはできない.それらを考慮すると多発痔瘻に対する手術治療は一括して行うのが理想と思われる.しかし一方,1本1本の痔瘻に対してその発生部位や瘻管走行の深さや瘻管の長さ複雑さを考慮して術式をそれぞれに適応していく方針の場合,従来法ではやはり肛門管内の創は痔瘻の数だけ多くならざるを得ない.多発痔瘻全てに開放術を適応した場合,各痔瘻への根治性は得られても術後肛門括約筋機能はトータルとしてかなりダメージを受けるはずであり術後のガス漏れ,便漏れ,下着汚染などが心配される.非開放式術式に変えても原発口に対する切除創は痔瘻の數だけ必要であるし,シートン法においても痔瘻の数だけ肛門管内の創やシートンが残ることになる.肛門管内の創が多くなれば術後管理の煩雑さや排便時の疼痛はやはりそれだけ増強していくし,治療中のQOLは決して良好とは言えない.
2008年から前側方の低位筋間痔瘻に対して肛門上皮を温存する痔瘻手術法(2014年からSIFT・IS法と命名し,2022年に論文化)を施行してきたが,その後適応を広げ後方の低位筋間痔瘻に対しても,深部痔瘻に対しても肛門上皮を温存する術式を選択してきた.即ち何本の多発痔瘻であっても肛門管内に切除創やドレナージ創を残さなくて済むため,多発痔瘻に対しては特に有用な術式と思われる.現在行っているSIFT・IS法を基本にした多発痔瘻に対する手術方法について動画を含めて提示したいと思う.
単発の痔瘻でも以上のような問題点を含んでいる手術治療法であるが,これが多発痔瘻となるとその手術方法は個々の痔瘻に対して慎重な対応が必要となる.多発痔瘻とは原発口がそれぞれ異なる2本以上の活動性の痔瘻のことで有り,二次口の數で診断するものではない.演者の経験では最大7本の多発痔瘻を経験している.一度にすべての痔瘻に対する手術をするのか,複数回に分けて手術するのか,それぞれの痔瘻の特性を考慮して開放術,括約筋温存術,シートン法等を混在させて適応するのか,多発する痔瘻の数が多くなればなるほど悩むこととなる.
一方多発痔瘻は初発から多発痔瘻ではなく,はじめ単発であった痔瘻が放置により2本3本と複数生じてくる傾向がある.6本,7本になってから初めて医療施設に受診する例もある.そのような症例に初発からの経過を聴取すると時間をかけて1ヶ所ずつ増えてきたことが判明する.一斉に生じた病変ではないのである.活動性のある痔瘻を放置すると痔瘻癌になるリスクは臨床の場面で強調されているが,多発化していくリスクについてはあまり触れられていないように思われる.演者は術前の手術適応を説明するときに放置による多発化を挙げるようにしている.単発の痔瘻においても内肛門括約筋レベルの筋繊維の硬化が肛門狭窄を来たし,原発口以外でもanal cryptのdeep化が進み新たな痔瘻の発生へと経過していくように思われる.低位筋間型のみならず深部痔瘻との合併も決してまれではない.
そのような背景から多発痔瘻の症例では著明な肛門狭窄を呈していることが多く,その肛門管内環境を一気に是正しなければ新たな痔瘻発生のリスクを排除することはできない.それらを考慮すると多発痔瘻に対する手術治療は一括して行うのが理想と思われる.しかし一方,1本1本の痔瘻に対してその発生部位や瘻管走行の深さや瘻管の長さ複雑さを考慮して術式をそれぞれに適応していく方針の場合,従来法ではやはり肛門管内の創は痔瘻の数だけ多くならざるを得ない.多発痔瘻全てに開放術を適応した場合,各痔瘻への根治性は得られても術後肛門括約筋機能はトータルとしてかなりダメージを受けるはずであり術後のガス漏れ,便漏れ,下着汚染などが心配される.非開放式術式に変えても原発口に対する切除創は痔瘻の數だけ必要であるし,シートン法においても痔瘻の数だけ肛門管内の創やシートンが残ることになる.肛門管内の創が多くなれば術後管理の煩雑さや排便時の疼痛はやはりそれだけ増強していくし,治療中のQOLは決して良好とは言えない.
2008年から前側方の低位筋間痔瘻に対して肛門上皮を温存する痔瘻手術法(2014年からSIFT・IS法と命名し,2022年に論文化)を施行してきたが,その後適応を広げ後方の低位筋間痔瘻に対しても,深部痔瘻に対しても肛門上皮を温存する術式を選択してきた.即ち何本の多発痔瘻であっても肛門管内に切除創やドレナージ創を残さなくて済むため,多発痔瘻に対しては特に有用な術式と思われる.現在行っているSIFT・IS法を基本にした多発痔瘻に対する手術方法について動画を含めて提示したいと思う.