講演情報
[EL5-2]難治性痔瘻への対応
下島 裕寛, 宮島 伸宜, 松島 誠 (松島病院大腸肛門病センター)

はじめに:
肛門科領域では日常的に痔瘻の手術はおこなわれているが,時にIII型やIV型等の深部痔瘻や分枝の多い複雑痔瘻,再発をくり返す痔瘻など手術に難渋する症例も目にすることがある.これらの症例に対しての明確な手術法はないが,我々の施設でおこなわれている診断・手術方法に関して実際の症例を提示し,説明する.
診察・診断:
痔瘻の手術の原則は原発巣・一次口・二次口の適切な処置と瘻管の切除である.そのために術前の正確な病型の診断が求められる.特に深部痔瘻では膿瘍期の正確なドレナージが求められ,消炎が不十分な症例では再発のリスクが高くなる.また,再発をくり返す痔瘻では,前回手術の影響もあり,通常の痔瘻の形態とは大きく異なる症例も多く,術前・術中の診断には通常痔瘻より更に注意が必要となる.我々の施設では膿瘍期には全例に経肛門超音波検査をおこない,深部膿瘍では骨盤CTも加えて膿瘍の部位・広がりを判断しドレナージを行っている.また,根治手術時にはMRIも含めた総合的判断で可能な限り一次口・原発巣の部位を特定するようにしている.また,深部痔瘻では括約筋に対しての影響が大きく,再発痔瘻では前回手術による括約筋機能低下が認められる症例もあり,術前に肛門括約筋機能検査をおこない,機能的な評価をおこない,術式の決定に役立てている.しかし,術前診断では判断困難な症例もあり,麻酔下で再度慎重に視診・触診・経肛門超音波検査を施行し,術式の決定をおこなうようにしている.
手術方法:
深部痔瘻や再発痔瘻においても手術の基本は一次口・原発巣・二次口・瘻管の処理を適切におこなうことに変わりはない.特に再発痔瘻では前回手術での一次口の誤認や処理が不十分であったことが原因となることも多く,術中にも常に確認をくり返し,より慎重に部位の同定をおこなう必要がある.術式選択においては,肛門機能温存も十分に考慮したうえで選択する必要もある.手術は通常の痔瘻と同様に二次口からアプローチをはじめ,原発巣の開放をおこなう.深部痔瘻では原発巣周囲が硬化し大きなスペースを有する症例もあり,二次口切開が小さいと十分なドレナージができず,深部創の治癒前に創が閉鎖し非治癒になる事もあり注意が必要である.原発巣開放後は,そこからの枝分かれする瘻管の確認をし,可及的に瘻管を切除する.更に原発巣から一次口の確認をおこなう.一次口から原発巣までの瘻管(一次瘻管)が歯状線より肛門側を通る場合は内括約筋を開放する術式や括約筋内の瘻管をCoring outし一次口周囲の粘膜を剥離しAdvancement flapとして一次口の処置をおこなう術式を選択している.一次瘻管が高位を走行する場合はSeton法などで括約筋機能障害を考慮した術式を選択するようにしている.また,複数回手術などで括約筋が硬化した症例などではHanlay変法なども選択しているが,肛門機能障害や術後の変形などのリスクを考慮し,選択する必要がある.
術後管理:
術後は排便コントロールが重要で,硬便だけでなく軟便にならないよう指導をおこなう.
創部消毒はおこなわず,入浴・洗浄で創部の清潔を保つようにする.
まとめ:
深部痔瘻や再発痔瘻など治療に難渋する症例は肛門科の専門医でも明確な治療指針がないのが現状で,各先生方も様々な工夫をされていることと思われる.今回が診療の一助となれば幸いである.