講演情報

[SP2-4]「医師の働き方改革」を考える

望月 泉 (八幡平市立病院)
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いよいよ本年4月から罰則付き医師の時間外労働時間の上限規制が始まった.岩手県では特例労務水準は5病院(大学病院を含む)が申請,認定され,医師不足,医師偏在指数の低い県では地域医療提供体制の維持が危惧されるが,全国一律に働き方改革は始まる.単純に時間外労働時間を減少させようとすると,医師にとって大事な経験症例の減少,研修時間の減少,診療制限によるアクセスの悪化,経営の悪化を招来し,地域医療が破綻する.地域医療崩壊は医療提供体制が破綻することであるが,提供する医療の質も大事な要素で,低下しないよう担保されなければならない.
 医師の研鑽は,医療水準の維持・向上のために欠かせないものであるが,今回の案は,若い医師の研鑽意欲を阻害せず,適切な形での研鑽の実施が図られる労働時間管理の在り方となっているだろうか?体力知力の旺盛な若い世代に徹底して習得した価値ある経験・学習は,その後の医師としての成長を促す大きな要素である.研修医は労働者と定義されているが,学習者としての側面も重要で,成長に必要な研鑽,医師としての経験を積むことをけっして妨げるような働き方改革であってはならず,逆にあきらかな労働時間が研鑽と処理されてもいけない.職業を表す英単語はOccupation,Trade,Business,Employment,Job,Vocation,Calling,Professionと種々あるが,頭脳を用いる専門的職業である神学・法学・医学は古来Professionと称されてきた.今回の「医師の働き方改革」は勤務医を労働者と認定し,労働基準法の適用下にあるとするものだが,医師のプロフェッショナリズム,プロフェッショナルオートノミーが壊れてしまう改革では将来に向けて禍根を残す.医師は単なるJob Workerであってはならず,プロフェッションとの意識が必要で,診療に際して誇りと矜持を持ち続けていきたい.働き方改革はマネジメント改革と考えることができ,医師の指示がないと動けない,動かない医療から,医師は本来の業務である診断・治療・手術に専念できる体制を作る.業務を標準化し,タスクシフトした上で各専門職が自分で考えて判断し,実践する医療を目指すことで働きがいも生まれる.本当のチーム医療とは,各職種が連携しながら専門性を最大限に発揮する医療であると考える.
 今後目指していく医療提供の姿として,労働時間管理の適正化が必要で,その際,宿日直許可基準における夜間に従事する業務の例示等の現代化,医師の研鑽の労働時間の取扱いについての考え方等は示されてきた.医師の労働時間短縮のために,医療機関のマネジメント改革(意識改革,チーム医療の推進,ICT等による効率化),地域医療提供体制における機能分化・連携や医師偏在対策の推進は必要で,地域医療を守るためにも医師が働きやすい勤務環境の整備が重要であると考える.働き方改革は医師の意識改革の契機であり,医師の健康確保と地域医療体制の維持が要で,職員・患者満足度をあげるためにも働きやすい働きがいのある職場環境と質の高い医療提供体制を築いて行きたい.同時に時間外労働時間の短縮とともに,生産性が向上する病院マネジメントが必要で,多様な働き方に対して,寛容になる文化の醸成が医療界全体で進み,バーンアウトすることなく性別,年齢に関わらず持続可能な勤務体制となり,医師も健康で豊かな人生を送れるようになりたい.