講演情報

[AL-2]2025年学術賞受賞者 治療抵抗性細胞集団を出現させることで癌幹細胞は細胞障害に関わらず生存する

長江 歩 (市立伊丹病院消化器外科)
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〔目 的〕 化学療法は様々な癌に対して効果的だが完全に腫瘍細胞を排除することは難しく、治療抵抗性を示す細胞の出現が問題視されている。この治療抵抗性には腫瘍内の多様性、腫瘍不均一性が関与し、癌幹細胞((Cancer stem cells: CSCs)が関連していると報告されている。本研究では化学療法後に出現する、腫瘍の再発、再燃に関与するCSCsについて検討した。
〔方 法〕 大腸癌細胞株とヒトオルガノイドに対して、抗がん剤感受性及び、薬剤投与後の経時的な細胞表面マーカーの変化、増殖能の変化、異種移植モデルを用いた増殖能について検討した。細胞集団の詳細な解析を行うため、DsRedをトランスフェクションしたオルガノイドを作製し、Single cell RNA-seq (scRNA-seq) 解析、qRT-PCR解析、マウスモデルでの検討を行った。
〔結 果〕 薬剤投与後、CD44陰性(-ve)集団の割合が一過性に増え、時間経過とともに減り、元の集団に近似する集団を再形成していルことが示された。CD44-ve細胞はCD44陽性(+ve)細胞より増殖能が高く、in vivoモデルでの腫瘍サイズも有意に増大していた。DsRed導入実験の結果から、CD44-ve細胞は5-FU投与前のCD44+ve集団に由来しており、scRNA-seqによるtrajectory解析、velocity解析でCD44-ve集団におけるPOU5F1遺伝子の高発現と誘導を認めた。qRT-PCRでCD44-ve細胞においてPOU5F1以外の幹細胞関連マーカーの発現上昇も確認された。そこでPOU5F1-EGFP-Casp9ベクターとdimerizerによるPOU5F1選択的な細胞死を誘導したところ、POU5F1に依存する増殖能の誘導と細胞生存機構が確認された。
〔総 括〕 抗がん剤投与後にCD44-ve細胞は化学療法抵抗性に関係しており、その原因遺伝子の一つにPOU5F1が関与していることが示された。POU5F1を抑制することで、治療薬剤投与後の再発・再燃の予防につながることが示唆された。