講演情報

[O17-2]潰瘍性大腸炎に対する回腸嚢肛門吻合における吻合困難を予測するリスク因子

中島 一記1,2, 上神 慎之介1, 新原 健介1, 伊藤 林太郎1, 土井 寛文1, 久原 佑太1, 宮田 柾秀1, 大段 秀樹2, 大毛 宏喜1, 髙橋 信也1 (1.広島大学大学院医系科学研究科外科学, 2.広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学)
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【目的】潰瘍性大腸炎 (以下UC) に対する回腸嚢肛門吻合(以下IPAA)において吻合困難となるリスク因子を明らかにする.
【対象と方法】2018年1月から2025年3月までにUCに対してIPAAを行った59例を対象とした. 当科のIPAAは肛門管内での手縫い吻合であり, これまで吻合できず術式変更を行った症例はない. 吻合時に小腸間膜に減張切開や開窓, 血管処理を必要とした症例を吻合困難 (Anastomotic difficulty: AD)と定義し, 吻合困難のリスク因子についてAD群と処置を施さなかった通常群(normal group: N群) で患者背景, 腹部骨盤CTで測定可能な指標を後方視的に比較検討した. 上腸間膜動脈 (SMA)の走行を腹部大動脈に対する位置関係 (右側・左側) で分類した. 小腸間膜の評価指標は, SMA根部から末梢枝までの距離を「腸間膜長」, SMA末梢から肛門管上端までの距離を「腸間膜可動長」と定義し, 測定した. 骨盤の評価指標は, 産科的真結合線距離, 骨盤傾斜角, 仙骨角度を測定した. それぞれのcut off 値はROC曲線で求めた.
【結果】年齢中央値は48歳 (14-82), 男:女が39:20, BMI中央値は22.4kg/m2 (13–36.6)だった. 3期分割 : 2期分割が24 : 35, OP : LAPは21 : 38 だった. AD群 : N群は37 : 22で, 縫合不全はAD群で2例, N群で1例だった. SMAの走行は右 : 左が16 : 43だった. 腸間膜長中央値は20.8cm (13.0-27.2) で, 腸間膜可動長中央値は9.2cm (3.6–19.9 ) , 産科的真結合線距離中央値は12.3cm (9.6 – 15.3) , 骨盤傾斜角中央値は62.8度 (48.9 – 74.7) , 仙骨角度中央値は34.3度 (18.6–54.3) だった. 単変量解析では, 左側SMA (p=0.032)とBMI:22以上(p=0.001)に有意差を認めた. 小腸間膜や骨盤に関する測定値には有意差がなかった. 単変量解析で有意差を認めた因子で多変量解析を行い, 左側SMA (p=0.002, OR:10.1, 95%CI: 2.18-75 ), BMI:22以上 (p=0.0001, OR: 13.8, 95%CI: 3.33–96)が独立したリスク因子だった.
【結語】SMAが腹部大動脈の左側を走行する症例, 術前BMIが高い症例では腸間膜の減張切開や血管処理を必要とする可能性が高い. 予めリスクを考慮して手術計画を立てることで安全に回腸嚢肛門吻合を行うことができる.