講演情報

[O2-4]鎖肛術後、中年期に発症した悪性腫瘍との鑑別を要した直腸粘膜脱症候群の1例

藤木 健太郎1, 増井 友恵1, 柴田 亮輔1, 豊永 敬之2, 壬生 隆一3 (1.福岡山王病院消化器外科, 2.豊永医院, 3.みぶ博多駅前クリニック)
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【症例】55歳、男性。前医で鼠径ヘルニア手術を施行された際に直腸脱の所見を認めたため、精査加療目的に当科紹介となった。患者は4-5年前より下着への血液付着や便失禁症状あり。診察時、肛門より怒責なしの状態で腸管脱出を認め、脱出部は表面不整の腫瘤性病変を伴っていた。病変部に対して悪性腫瘍との鑑別目的に下部消化管内視鏡検査を施行したところ、生検にて直腸粘膜脱症候群の診断となった。患者は幼年期に鎖肛の手術歴あり、以降も複数回の腹部手術歴があるため腹腔内は高度の癒着が予想された。また、脱出粘膜の変性も強く、脱出部を先進部として再発が引き起こされる可能性が危惧されたため、手術は経会陰的直腸切除術を施行する方針とした。【手術】砕石位にて手術を施行した。直腸観察時、前壁に8cmの粘膜脱症候群による腫瘤、後壁側に4cmに及ぶ腫瘤を認め、病変部は脱出していた。鎖肛手術による直腸と肛門側皮膚の吻合部に沿って切開を施行し、直腸壁の漿膜側を露出した。直腸前壁は10cm、後壁は5cm全層切除した。直腸切除後、直腸断端と皮膚を3-0バイクリル®にて縫合し、手術を終了した。【術後経過】術後3日目の血液検査で炎症所見の上昇あり。術後創部は明らかな感染兆候なく、抗生剤加療継続の方針として同日食事を再開した。食事再開後も腹部症状の増悪はなく、術後5日目の血液検査では炎症所見の改善を認めた。その後も経過良好で術後7日目に抗生剤終了し、術後8日目に退院となった。【結語】今回、鎖肛術後の中年期に発症した直腸粘膜脱症候群の症例を経験した。本症例は鎖肛術後、中年期に発症した極めて稀な症例であり、慢性経過例では悪性腫瘍と類似した所見を呈することからも症例の希少性も含めて今後の類似症例の蓄積が診療の質の向上に寄与すると考えられる。