講演情報

[O2-5]肛門部子宮内膜症の1例

操 佑樹, 新谷 裕美子, 井上 英美, 西尾 梨沙, 大城 泰平, 古川 聡美, 岡本 欣也, 山名 哲郎 (JCHO東京山手メディカルセンター大腸肛門病センター)
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【はじめに】皮膚子宮内膜症は子宮内膜症の1.9~2.6%と報告され腹壁瘢痕部に多いが,肛門会陰部は比較的まれである.治療はホルモン療法と外科的切除があるが,ホルモン療法は長期的服用による副作用が問題となり,外科的治療は肛門部の場合は術後括約筋不全のリスクが問題となる.今回我々は,術前に画像評価をし,肛門括約筋を温存して肛門部子宮内膜症を治療した1例を経験したので報告する.
【症例】39歳女性,2経妊2経産,30歳の初回分娩時に会陰切開が行われた.数年前より月経中から月経後にかけ疼痛を伴う肛門左側の腫瘤を自覚していた.近医にて感染性腫瘤と診断され抗生剤治療が行われたが改善せず,痔瘻の疑いで当院へ紹介された.肛門診察で肛門左側の会陰切開創に一致した2cm大の皮下腫瘤を触知したが瘻管は不明瞭であった.肛門超音波検査では,肛門左側皮下外括約筋の外側に26×12mm大の境界明瞭な内部均一の低エコーを認め,骨盤造影MRI検査では,T2強調画像で肛門左側に2cm大の高信号,脂肪抑制T1強調画像で内部出血を示唆する腫瘤状の所見を認めた.以上の所見より肛門部子宮内膜症の疑いで腰椎麻酔下に腫瘤摘出術を施行した.肛門括約筋との境界は明瞭で,括約筋に侵襲を加えることなく腫瘤を切除した.病理組織診断は子宮内膜症であった.術後経過は良好で生理周期に一致した肛門痛は消失し,ホルモン療法は施行せず術後1年無再発で経過中である.
【考察】肛門会陰部子宮内膜症は分娩時に剥脱した子宮内膜片が会陰切開創や会陰裂傷部に生着し発症する移植説が有力で,切開縫合部に発症することが多い.臨床的には月経周期に一致した痛みや腫脹を伴う腫瘤が典型的であるが,無症状の場合もある.女性の肛門や会陰部に腫瘤を認めた場合は,子宮内膜症の可能性を考慮し,妊娠分娩歴や会陰切開の有無,月経周期と症状の関連など十分な問診を行うことが大切である.治療方針の決定に際してはホルモン療法と外科的切除それぞれのリスクと効果を説明することが重要であり,外科的切除を選択した場合は術前に超音波検査やMRI検査などの画像評価を行い解剖学的な位置関係を把握することが重要である.