講演情報

[O23-8]当院で経験した痔瘻癌の3例

市原 明子, 岩本 和樹, 原 大介, 濱田 朗子, 山田 和之介, 武野 慎祐, 七島 篤志 (宮崎大学医学部附属病院消化器外科)
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【はじめに】痔瘻癌は肛門管癌に分類される比較的稀な疾患であり, 長期にわたって慢性炎症を繰り返す痔瘻が発生母地と考えられている. 2015年から2025年1月まで当院で経験した痔瘻癌3例(転移性痔瘻癌1例を除く)について報告する. 【症例】症例1は68歳女性で30年以上のクローン病罹患歴があり,10年前から難治性痔瘻をフォローアップ中であった. 症例2は65歳男性, 症例3は70歳男性で, 数年前の痔瘻発症で数カ月前からの硬結, 排液量の増加が主訴であった. 隅越らの診断基準を満たす症例は1例のみで, いずれも腰椎麻酔下瘻孔掻把による生検で最終的に痔瘻癌(粘液癌)の診断に到った. 側方, 鼠経リンパ節転移, 遠隔転移は認めなかった. クローン病で複数開腹歴のある1例で開腹APRを選択し, 2例は腹腔鏡下APRを施行した. 症例2は膿皮症所見を伴い2次口が臀部から陰茎根部付近まで広範囲に広がっており, マージンを十分確保した切離ラインをとって薄筋皮弁再建を施行した. 症例3は骨盤内に膿瘍形成を伴う粗大な腫瘍を認め, R0切除が困難と判断し術前CRT(Capecitabine+50.4Gy)を施行した. CRT後8週目のMRI評価で腫瘍の一部縮小を認めるもSDでAPRを施行した. 背側剥離の際, 仙骨前面で膿瘍壁から膿汁の漏出を認めた. 炎症で腹膜の高度の肥厚と硬化により前方が塞がっており, 腹膜翻転部への到達が不可となったところで会陰操作に移った. CRTの影響で骨盤底から坐骨直腸窩にかけて石様の硬い瘢痕組織を呈していた. 病理組織診断結果はpT2 : pT3 2 : 1, いずれもpN0で切除断端陰性であった. CRTによる治療効果判定はGrade1b相当であった. 術後麻痺性イレウスを認めた1例の他, 概ね良好な経過であった. 術後3か月, 8か月, 34か月現在再発転移を認めていない.
【結語】痔瘻癌は複雑化した瘻孔の広がりにより切除断端陽性率が高く, いかに安全な切離マージンを取って局所再発を制御するかが重要とされる. CRTの有効性を示す報告も散見されるが, 希少性から標準治療が確立していない疾患であり, バリエーション豊富な症例毎に術前評価, 集学的治療を含めた治療戦略, 切除ラインの検討を十分に行う必要がある.