講演情報
[O25-1]大腸癌手術における切除部位の違いが術後腸内細菌叢に与える影響の検討
松本 航一1, 大塚 幸喜2, 服部 豊1, 隈本 力1, 近石 裕子1, 辻村 和紀1, 谷口 寛子1, 上嶋 徳1, 稲熊 岳1, 小林 陽介1, 大村 悠介1, 廣 純一郎1, 松岡 宏1, 升森 宏次1, 藤井 匡3, 栃尾 巧3, 廣岡 芳樹3, 宇山 一朗2, 須田 康一1 (1.藤田医科大学総合消化器外科, 2.藤田医科大学病院先端ロボット内視鏡手術学, 3.藤田医科大学病院消化器内科)
【目的】腸内細菌叢は大腸癌の発症や進展、術後の炎症や化学療法の抗腫瘍効果に至るまで多面的に関与することが明らかになっている。近年、腸内細菌叢を標的とした治療介入も注目されつつあるが、外科的切除が腸内環境に及ぼす影響について十分に検討されていない。本研究では術式別の腸内細菌叢の変化を検討し、外科的切除による腸内環境の変化を明らかにすることで術後管理や再発予防に向けた知見を得ることを目的とした。【方法】2022年4月~2023年12月に当院で大腸癌に対し根治的切除を受けた術後3か月以上経過した34例(右側結腸切除RSC:9例、左側結腸切除LSC:15例、低位前方切除LAR:10例)の糞便を16S rRNAアンプリコンシークエンスで解析を行った。比較対象として健常成人85名の糞便データを用いた。腸内細菌叢の多様性評価としてα多様性(Shannon index)およびβ多様性(Bray-Curtis距離)を算出し、群間の統計学的差異をKruskal-Wallis検定およびPERMANOVAで検討した。さらにLEfSe解析により各群に特徴的な細菌種を抽出した。【結果】RSC群ではFaecalibacterium prausnitzii、Bifidobacterium属など短鎖脂肪酸産生菌の減少やEscherichia coliの増加がみられ、α多様性の低下を認めた。LSCおよびLAR群ではAkkermansia muciniphilaやParabacteroides distasonis等の腸管バリア機能や免疫調整に関わる菌の増加がみられた。RSC群では他群に比べβ多様性の変化も大きく、切除部位による腸内環境の変化が明らかであった。【結語】大腸癌に対する外科的切除は術後腸内細菌叢に特異的な変化を引き起こし、特にRSCでは回盲弁喪失に伴う有益菌の減少およびEscherichia coliの増加を含む菌叢の乱れが観察された。これにより短鎖脂肪酸産生菌の枯渇や炎症性環境の亢進が示唆され、術後の免疫調節や腫瘍微小環境にも影響を及ぼす可能性がある。一方、LSCおよびLARではAkkermansia muciniphilaなどの増加がみられ、粘膜バリア機能の維持や免疫賦活が期待される菌叢の再構築が示唆された。術式ごとの細菌叢の変化は、術後合併症や化学療法に影響を与える可能性があり、将来的には腸内環境に着目した術後管理や治療戦略への応用が期待される。