講演情報

[O4-5]ユニバーサルスクリーニングを介したLynch症候群の診断と遺伝学的検査実施率の検討

藤吉 健司, 主藤 朝也, 古賀 史記, 仕垣 隆浩, 吉田 直裕, 大地 貴史, 吉田 武史, 藤田 文彦 (久留米大学)
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【背景】Lynch症候群(LS)は大腸癌で最頻の遺伝性腫瘍である. LSの確定診断は遺伝学的検査(GT)による生殖細胞系列バリアントの同定が必須である. LSのGTは保険未収載で全額自己負担である. さらに遺伝性情報の普遍性や共有性による心理社会的影響がありGTを希望しない方もいる.

【方法】がん拠点病院において2017年から前向き研究としてミスマッチ修復(MMR)タンパク免疫組織化学検査(MMR-IHC)によるユニバーサルスクリーニング(UTS)を実施している. MMR機能欠失(dMMR)大腸癌の全例に対して遺伝カウンセリングを実施し, 希望者に対して研究費で遺伝学的検査を実施した. 本研究を通したGTの実施率, GT非希望者の理由などを通して, GTの心理社会的影響について後方視的に検討した.

【結果】2017年1月-2023年12月の原発性大腸癌手術症例1106例のうち, 878例にMMR-IHCを施した. 878例のうちdMMR:83例(9.5%)であった. dMMR大腸癌のうち, 散発性大腸癌と想定されるMLH1発現欠損かつBRAF変異型(18例)を除外したGT候補例は64例(77%)であった. GT候補例の全例に対して遺伝カウンセリングを実施し, 31例(48%)がGTを承諾した. LS:13例(全大腸癌の1.4%, dMMRの15.6%, MLH1/MSH2/MSH6=3/7/3例,VUS;2例)が診断された. GT実施群(29例)は, GT非希望群(33例)と比較して, 年齢が若く(60.5歳vs75歳), MSH2-MSH6欠損例(44%vs19%)が多かった. GT非希望者(33例)の内訳は, ①高齢かつ家族歴がなくLSの可能性が低いためGTを積極的に推奨していない症例(13例,39%), ②GTに関心がない(8例,24%), ③GTが不安で検査しない(2例,6%), ④ケモ中・別疾患で治療中/周術期死亡(6例,18%), ⑤未説明と理由不明(4例,12%)であった.

【結語】UTSを通して, LSのGT検査の経済的負担を除外しても, 不安などの心理社会的影響によりGTを希望しなかった症例は6%程度であり, GTに対する関心が低く希望しなかった症例は少なくとも24%であった. 保険未収載であるLSのGTの実施率向上にはゲノム医療に対する関心度の向上と患者側のニーズ把握が重要である.