講演情報

[O7-5]クローン病関連直腸肛門管癌に対する診療上の課題

上神 慎之介, 中島 一記, 亀田 靖子, 新原 健介, 伊藤 林太郎, 土井 寛文, 久原 佑太, 宮田 柾秀, 大毛 宏喜, 高橋 信也 (広島大学大学院医系科学研究科外科学)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【目的】
クローン病(CD)関連直腸肛門管癌手術症例の治療成績を検討し,診療上の課題を明らかにする.
【対象と方法】
2010年1月から2023年9月までの期間に,CDに対して腸管切除術を施行した429例のうち,CD関連直腸肛門管癌と診断された9例(2.1%)を対象とし,その臨床病理学的特徴について後方視的に検討した.
【結果】
男性5例,女性4例で,癌診断時の平均年齢は49歳(37-68歳)だった.癌診断までの平均罹病期間は22年(1-47年),肛門病変の手術既往は5例,腹部手術既往は6例に認めた.診断契機は,肛門痛が6例,血便が3例(重複あり)と,約8割が自覚症状によるもので,サーベイランス内視鏡検査で発見された症例は2例にとどまっていた.9例中4例に対して術前化学放射線療法(CRT)が実施され,術式は腹会陰式直腸切断術が7例,肛門非温存大腸全摘術が2例に選択されていた.病理組織型は粘液癌が7例,中分化型腺癌が1例,高分化型腺癌が1例だったが,分化型腺癌においても低分化成分や粘液癌成分の混在が認められた.最終病理診断は,(y)pStageI/II/IIIがそれぞれ2例/3例/4例であり,R0が6例,R1(RMX 1例を含む)が3例だった.R1の3例は全て剥離断端(CRM)陽性であり,CDによる慢性炎症がその要因として示唆された.術後補助化学療法は,StageI/IIではR1の3例に,StageIIIでは1例を除く全例に施行されたが,8例(77.8%)に再発を認めた.再発形式は,局所再発が2例,局所と遠隔転移再発が1例,遠隔転移再発のみが5例で,遠隔転移再発の頻度が高かった.術前CRTを施行した4例ではCRMは陰性だったが,2例に局所再発を認めた.術後1年および2年の無再発生存率はそれぞれ88.9%,25.4%であり,中央値は23ヶ月で,2年以内に半数以上が再発していた.また,術後3年および5年の全生存率はそれぞれ87.5%,29.2%と不良だった.
【結語】
CD関連直腸肛門管癌は粘液癌の頻度が高く,術前CRTによる局所制御は十分ではなく,術前化学療法を併用した治療法も検討が必要である.また,サーベイランス内視鏡で診断された症例も進行癌であり,治療成績向上のためには,早期発見のためのサーベイランス法の確立が課題である.