講演情報

[P11-1]バリウム造影によるS状結腸穿孔の2例

竹原 裕子, 佐々木 崇夫, 工藤 泰崇, 赤在 義浩, 大谷 剛 (岡山済生会総合病院)
PDFダウンロードPDFダウンロード
上部消化管造影検査後の大腸穿孔は,極めて稀な合併症といわれているが,死亡例の報告もあり,発見が遅れると重症化するリスクが高い.
【症例1】
87歳,男性.前医にて胸やけに対し,上部消化管内視鏡検査を施行したところ,重視に腸腺腫を指摘され,精査目的にバリウムによる胃透視を施行された.2日後,排便後に左下腹部痛を発症し,当院救急搬送される.CTにて直腸S状部に穿孔を認め,腹腔内にバリウムの漏出を認めた.緊急でS状結腸切除,吻合および回腸人工肛門造設術を施行した.バリウム塊が腸管に嵌頓しており,その口側で穿孔を認めた.術後経過では腹腔内膿瘍による炎症の遷延を認めたたが,改善し,退院.2か月後に人工肛門閉鎖術を行った.その後,紋扼性腸閉塞,癒着性腸閉塞でそれぞれ手術を行っている.
【症例2】
73歳,男性.他院にて検診のため,バリウム造影を行うも白色便は認めず.7日後に左下腹部痛を発症し,当院救急外来を受診した.CTにてfree airおよびS状結腸にバリウムと考えられる高吸収域を認めたため,バリウムによるS状結腸穿孔と診断し,ハルトマン手術を施行した.術後創部および腹腔内に膿瘍を認めるも,保存的加療で改善し,退院となった.
 いずれの症例も,腸穿孔はバリウム検査後数日経過してから発症しており,排便の確認が重要であることが示唆された.貯留したバリウムを排泄する際には強力な下剤や浣腸よりも50%ラクツロースなど緩徐な排便を促す下剤を使用した方が良いという報告もある,
また,本症例では術後炎症が遷延する傾向を認めたが,バリウムによる腹膜炎では,バリウムに対する異物反応により強い炎症が起きることは報告されており,炎症の遷延もそれに伴うものであると考えられた.なお,バリウムよる消化管穿孔は,通常の消化管穿孔よりも死亡率が高く29%と報告されている.
 バリウムによる腸穿孔は60歳以上の高齢者に多いとされており,高齢化が進むともない,症例が増えていくことが予測される.以前より,指摘されているが検査前のリスクの確認および,検査後のバリウムの排泄の確認を行うことが,今後はより一層重要である.