講演情報

[P20-4]膣ヒアルロン酸注入療法により発生した直腸肛門部合併症の3例

新谷 裕美子, 大城 泰平, 井上 英美, 西尾 梨沙, 古川 聡美, 岡本 欣也, 山名 哲郎 (JCHO東京山手メディカルセンター大腸肛門病センター)
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【はじめに】
 膣ヒアルロン酸注入療法は、更年期障害、膣乾燥、性交時の不快感や性感低下などの改善を目的として、一部の美容外科や婦人科クリニックにおいて自由診療で実施されている。しかし、国内における施術件数や実施施設に関する統計は存在せず、全国的な普及状況は不明である。また、日本産婦人科学会や美容外科学会などの主要学会から本療法に関する公的なガイドラインや推奨は発表されておらず、安全性や有効性に関するエビデンスも限定的である。今回我々は、膣ヒアルロン酸注入後に直腸肛門領域に重篤な合併症をきたした3症例を経験したため報告する。
【症例提示】
症例1:30代女性。美容外科にて膣ヒアルロン酸注入を施行。翌日に発熱、肛門周囲の疼痛と腫脹を自覚したが、施術医より合併症との指摘はなく、近医で抗菌薬治療を受けた。症状は改善せず、施術17日後に当科受診。MRIにて両側坐骨直腸窩に膿瘍形成を認めた。腰椎麻酔下にドレナージ術を施行し、術後6日目に退院した。
症例2:30代女性。施術直後より肛門痛を自覚。近医で抗菌薬治療を受けるも軽快せず、10日目に当科受診。MRIで膣壁と直腸間隙に膿瘍を認め、全身麻酔下に経直腸的骨盤内膿瘍ドレナージ術を施行。術中、膿瘍が直腸へ穿破していることを確認。直腸膣瘻に対してTPN管理を行い、術後16日目に退院した。
症例3:50代女性。施術後、10日間にわたり発熱が持続したが自然軽快。2ヶ月後に大腸内視鏡検査で直腸粘膜下に膿瘍形成を指摘され、当科紹介受診。MRIで直腸粘膜下膿瘍と診断された。
【まとめ】
 膣ヒアルロン酸注入療法は美容目的の情報発信でその有用性が強調される一方、重篤な合併症については知られていない。当治療を施行する医療提供者は本報告のような直腸肛門部に深刻な合併症を生じる可能性があることを患者に情報提供する必要があり、また大腸肛門病専門医も膣ヒアルロン酸注入療法の合併症を認識する必要がある。