講演情報

[P21-4]局所切除のみで2年間無再発経過中の痔瘻癌の1例

工代 哲也1, 岡本 欣也2 (1.吉祥寺北口駅前こにし胃腸内視鏡・肛門クリニック武蔵野院, 2.東京山手メディカルセンター大腸・肛門外科)
PDFダウンロードPDFダウンロード
痔瘻癌に対する標準治療は直腸切断術や骨盤内臓全摘術であるが、局所切除で制御し得た症例を経験したため報告する。
症例は59歳男性。約20年前より肛門部の腫脹と排膿を繰り返し、十数年前に痔瘻と診断された。以降は通院せず、市販の抗菌薬で軽快と再燃を繰り返していた。その後、慢性腎不全と診断されステロイド治療が予定されたが、治療前に痔瘻根治術を勧められ、手術目的で当科を紹介受診した。
肛門診察では肛門周囲から臀部にかけて広範に硬結と排膿を認めた。またMRIでは両側の坐骨直腸窩および大殿筋下方を通過し後方へ進展する経路と、骨盤直腸窩に進展する痔瘻を認めた。また、後方深部の不良肉芽腔内に複数の嚢胞状構造を認め、ムチン産生の可能性が示唆され、痔瘻癌が疑われた。
骨盤直腸窩痔瘻に対する痔瘻根治術(seton法)を行い、ムチンを含めた瘻管を病理に提出した。その後の病理組織結果は粘液産生性の癌細胞と間質への粘液漏出を認め、痔瘻癌と診断された。腹会陰式直腸切断術を勧めたが、肛門温存を強く希望され手術の同意が得られなかった。また実際の手術時に肉眼的には癌巣を切除しえた印象もあり、追加手術は施行せず経過観察とした。
術後6か月のMRIではSeton経路に不良肉芽腔は認められたが、術前にみられた嚢胞状構造やムチン形成性病変は消失しており、痔瘻癌を疑う所見を認めなかった。約1年後に、second lookとして不良肉芽掻爬、生検、Seton挿入部の開放術を施行したが、病理診断では癌の遺残を認めなかった。現在も外来にて経過観察中であり、術後2年の時点で再発を認めていない。
局所切除のみで2年間無再発経過中の痔瘻癌の1例を経験したため、若干の文献的考察を加えて報告する。