講演情報

[P3-2]現代の直腸癌手術において、術後に予防抗菌薬投与は必要か?

古屋 信二, 白石 謙介, 樋口 雄大, 松岡 宏一, 高橋 和徳, 丸山 傑, 庄田 勝俊, 河口 賀彦, 出雲 渉, 齊藤 亮, 雨宮 秀武, 川井田 博充, 市川 大輔 (山梨大学医学部外科学講座第1教室)
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【はじめに】消化器外科領域手術の予防的抗菌薬投与の有用性はこれまでに種々の報告がなされている。執刀1時間以内の術前抗菌薬投与はガイドラインでも明確に推奨されている。薬理学的な観点から術中の再投与も望ましいと考えられる。しかし、術後の抗菌薬投与継続の有用性に関してはエビデンスが不足しているのが現状である。当院で直腸癌手術の術後抗菌薬投与の有無とSSI発生率について検討した。
【対象と方法】2015年から2023年に当院で腹腔鏡下またはロボット支援直腸癌手術(マイルズ手術除外)を施行した164例に抽出した。術後抗菌薬投与の有無で2群に分け(抗菌薬あり:40例 vs 抗菌薬なし:124例)、切開部と臓器/体腔SSIの発生率について後方視的に検討した。傾向スコアマッチングを用い追加検討も行った。
【結果】年齢、性別、ASA-PS、併存疾患、腹部手術歴、手術時間について両群で有意差は認めなかった。BMIは抗菌薬あり群で有意に高く(22.9 vs. 21.18, p <0.05)、出血量は抗菌薬あり群で有意に多く(40mL vs. 31.5mL, p <0.05)、手術アプローチは抗菌薬あり群で腹腔鏡率が有意に高かった(54.0% vs. 7.5%, p <0.05)。切開部SSI (7.5% vs. 6.5%, p =0.473) 、臓器/体腔SSI (15% vs. 6.5%, p =0.108)は、両群で有意差は認めなかった。次に、年齢、性別、手術時間、出血量、BMI、ASA-PS、術前治療、ストーマ造設、手術アプローチ、喫煙、Albの11項目で傾向スコアを作成し、35組で解析を行ったが、切開部と臓器/体腔SSI発生率に有意差は認めなかった。
【結語】腹腔鏡下直腸手術において、術後抗菌薬投与の有無でSSI発生に差はなく、術後抗菌薬投与は省略できる可能性が示唆された。本研究は単施設で実施した後方視的検討であり、解析対象にバイアスが含まれる可能性がある。また、対象期間中において治療の進歩などの時代的な治療環境の変化もあり、これらが結果に影響を与えている可能性も考慮する必要がある。