講演情報

[P3-3]鏡視下直腸切除術における周術期管理(抗生剤を中心に)

吉田 雅, 市川 伸樹, 大野 陽介, 柴田 賢吾, 今泉 健, 佐野 峻司, 武冨 紹信 (北海道大学病院消化器外科Ⅰ)
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【背景】直腸癌の周術期管理において術後合併症発生率の低減は、患者QOL、医療経済、腫瘍学的予後の観点から重要である。その中でもSSI発生予防の戦略は特に肝要である。当科では、術前機械的腸管洗浄(MBP)と術後2日目までの静脈的抗生剤投与(IVA)を長期間施行してきた。今回、SSI発生率低減を目的として、術前化学的腸管洗浄(CBP)の追加、及び術後IVAの段階的短縮に取り組んでおり、その結果を報告する。
【対象と方法】2008年から2024年まで、当科で施行した原発性直腸癌に対する鏡視下直腸切除術の内、他臓器合併切除例、術前高度狭窄例を除いた312例を対象とし、周術期成績を後方視的に検討した。A群(n=233):2008/6-2021/9 MBP+IVA (手術当日-POD2)、B群(n=30):2021/9-2023/2 MBP+CBP+IVA (手術当日-POD2)、C群(n=49):2023/2以降 MBP+CBP+IVA (手術当日のみ)
【結果】患者背景は、年齢(A/B/C群: 65/63/66歳, p=0.35)(値は平均値)、男性(151/26/30例, p=0.03)、BMI (23.2/ 22.7/ 22/7, p=0.56)であった。2018年からダヴィンチを本格導入した為、ロボット手術施行率はB, C群で高率であった(62/ 27/ 40例, p<0.0001)。術式、ストマ造設率は同等であった。D3郭清はA群で少なかったが(198/ 29/ 48, P=0.003)、郭清リンパ節数は同等であった(16.6/163./16.3個, p=0.96)。手術時間はA群で短く(234/ 328/ 330分, p<0.0001)、出血量は同等であった(19/ 14/ 21gram, p=0.91)。術後在院日数(16.5/ 18.5/ 16.9日, p=0.47)、Clavien-Dindo分類grade 2以上の術後合併症発生率は同等(53/ 8/ 6例, p=0.17)で、縫合不全も低率であった(9/ 1/ 0例, p=0.17)。全SSI発生率は同等であったが(24/ 3/ 1例, p=0.10)、表層SSIに限定するとC群で少ない傾向にあった(13/ 1/ 0例, p=0.07)。
【考察】直腸癌の周術期管理において、CBP追加、IVA投与期間短縮はSSI低減に一定の効果があったと考えられる。しかしながら、腹腔鏡手術からロボット支援下手術への移行期とも重なっており、当科のSSI低減への取り組みの効果判定には、更なる症例の蓄積が必要である。