講演情報

[P35-4]腸閉塞を契機に診断されたクローン病合併小腸癌の一例

谷 公孝, 伊藤 俊一, 前田 新介, 前田 文, 腰野 蔵人, 近藤 侑鈴, 二木 了, 金子 由香, 番場 嘉子, 小川 真平, 山口 茂樹 (東京女子医科大学消化器・一般外科)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】クローン病(CD)は慢性炎症を背景に長期罹患により小腸癌を発症するリスクがある。炎症性狭窄との鑑別は難しく、術前の腫瘍診断が困難であり、生検でも悪性所見が得られない場合がある。今回、腸閉塞を契機として手術を施行し、小腸癌の診断・治療に至ったCD合併小腸癌の一例を経験したため報告する。
【症例】65歳男性。40代でCDと診断され、寛解維持療法にて長期フォローされていた。20〇〇年7月頃より下血と貧血が出現。小腸造影検査にて肛門側回腸に狭窄所見を認め、小腸内視鏡検査では同部位に発赤調の陥凹隆起性病変を認めたが、生検では悪性所見は得られなかった。炎症性狭窄と判断し保存的加療を継続していたが、1か月後に急激な腹痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診。腸閉塞と診断され緊急入院となった。イレウス管による腸管減圧後、狭窄部切除目的に手術を施行した。
【術中・病理所見】回盲部口側約60cmの回腸に、漿膜側まで発赤を呈し、高度狭窄を伴う約5cm大の腫瘤性病変を認めた。同部位口側腸管にイレウス管先端が到達しており、閉塞起点と判断。約15cmの小腸部分切除を施行した。病理検査では中分化腺癌(tub2>muc)、pT4a、pN0、ly1b、v1bと診断された。切除腸管にはCDに特徴的な線維化と慢性炎症性変化がみられた。
【考察】CDに合併する小腸癌は稀で、炎症性狭窄との鑑別が難しく、術前診断は困難である。本症例では生検陰性かつ腫瘍を想定していない状況下で、腸閉塞を契機に外科的切除を行い、結果として癌の早期診断および切除が可能となった。一方で、術前に悪性腫瘍を想定していなかったため、リンパ節郭清など根治性の観点では課題が残った。CDに伴う狭窄病変に対しては、非特異的な所見であっても常に悪性の可能性を念頭に置き、今後、術中迅速診断を積極的に活用することで、癌の確定診断に加え、リンパ節郭清の追加判断や治療予後の向上に寄与する可能性があると考えられた。