講演情報

[P40-1]肛門疾患における視診と指診の重要性

田畑 敏, 山崎 裕人 (市立砺波総合病院大腸・肛門外科)
PDFダウンロードPDFダウンロード
地方の公立総合病院で大腸肛門外科を旗揚げした知名な肛門外科医に師事し、外来診察、検査、手術、その他諸々のことを習い、その師匠の退職後に科を継承した。しかし習ってきたことを駆使しても立ち行かない症例に遭遇することもあり、試行錯誤しながら何とかやってきた。師事して30年近く、継承して20年になり、いよいよ次の世代に引き継いでもらう時機となった。
そこで、次世代の先生方に、受けた指導と自身の経験から『視診と指診の重要性』をお伝えしたい。手術については、high volume centerの先生方の手技が報告され、ネットを介し自宅でも観られるようになっている。肛門鏡診察についても、肛門科の諸先輩方のご努力で診療報酬の請求が可能となり、痛みの強い症例を除いて、今やこれを省く肛門外科医はいないと思われる。しかし、視診と肛門直腸指診については、幾ら丁寧に行っても報酬には反映されないため、充分に行われていない可能性がある。例えば、下血症例に対し、初診医の多くは、まず自身で大腸内視鏡検査を行うか消化器内科医に内視鏡検査を依頼し、その内視鏡診断に基づいて治療法を考える。間違いではないと思うが、内視鏡で必ず診断できるとは限らない。紹介された下血症例の中には前医で視診と指診が行われていなかったと推察される症例が散見される。実際、患者が(紹介元では)『肛門診察はなかった』とか、『直腸指診を受けなかった』と言うことが少なくない。しかし、視診と指診から得られる情報は測り知れず、初回診察の段階で確定診断もしくは診断への仮説を立てることができることも多いため、特に肛門外科医を目指す先生にはその重要性を伝えていきたい。
視診だけで、痔核、血栓、膿瘍、痔瘻、裂肛など出血や痛みの原因が推察可能なことがあり、指診でさらに診断に近づく。便排出障害型便秘ODSに至っては視診や直腸指診だけで診断がつくことの方が多く、追施する排便造影等の検査は、診断目的というより、手術希望例における術式決定の手段で、患者に病態を説明するための道具である。
今回の報告で、外来で遭遇する視診や指診で診断または診断に近い病態を推察できる典型症例を呈示したい。