講演情報

[P41-3]S状結腸吻合部狭窄に対しRIC(radial incision and cutting)による内視鏡的拡張およびステロイド局所注射での再狭窄予防が奏功した1例

楠戸 夏城1, 柴田 直史1, 田中 匡介2, 小森 徹也1 (1.三重県厚生農業協同組合連合会三重北医療センターいなべ総合病院外科, 2.三重県厚生農業協同組合連合会三重北医療センターいなべ総合病院内科)
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大腸吻合部狭窄に対しRIC(radial incision and cutting)で拡張を行い、ステロイド局注により再狭窄予防を行った症例を報告する。
 症例は60歳台男性で、脳梗塞既往のため抗血栓療法中である。S状結腸憩室炎の保存治療中、第6病日に腹膜刺激症状が出現した。CT再検により憩室穿孔による汎発性腹膜炎と診断し、同日穿孔部を含むS状結腸部分切除及び横行結腸双口式人工肛門造設を行った。術後に口側断端の破綻による腹腔内膿瘍を呈した。ドレナージやOTSC(over the scope clip)で結腸断端を閉鎖し得ず、第91病日に再手術で洗浄ドレナージ及び口側断端を追加切除のうえサーキュラーステープラーで肛門側断端と側端吻合した。再手術後は炎症の改善を認め自宅退院とした。残存する人工肛門の閉鎖を企図し、術前検査の下部消化管内視鏡検査でS状結腸吻合部に内腔5mm程度の狭窄を認めた。8mm、10atmでEBD(endoscopic balloon dilation)を行ったが、組織の繊維化が強く拡張し得ず、第330病日にRICを施行した。狭窄を形成する組織を切除し、スコープ通過可能となった。再狭窄を憂慮し、切除後の粘膜欠損部にトリアムシノロンアセトニドを局所注射および散布した。第343病日に横行結腸人工肛門を機能的端端吻合で閉鎖した。横行結腸吻合部の術後出血に対し内視鏡的止血術を行った際にS状結腸の吻合部を観察すると、再狭窄や膜様組織の出現を認めなかった。
 RICは高周波ナイフで狭窄部の肉芽や瘢痕組織を全周性に切除する内視鏡的拡張術である。難治性食道狭窄への治療法として初めて報告され、開存率や合併症においてEBDに勝るとされている。下部消化管狭窄に対するRICは未だ一般化されていないが、本症例のようにEBDで拡張し得ない固い狭窄に対して効果が得られる可能性がある。ステロイドの局注は3/4周性以上の食道ESD後の狭窄予防としてガイドラインで推奨されており、消化管狭窄拡張後の再狭窄予防としても期待されている。本症例では拡張術の3週間後に観察の機会を得たが、再狭窄の兆候は認めなかった。RICやステロイド局注は下部消化管吻合部狭窄に対する新たなオプションとなる可能性があり、症例を集積し検討する必要がある。