講演情報

[P7-1]診断に難渋した穿孔性虫垂炎を契機とした鼠径部膿瘍の1例

岡本 暢之, 古川 高意, 平野 利典, 長嶺 一郎, 大田垣 純 (広島共立病院外科)
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【はじめに】診断に難渋した穿孔性虫垂炎を契機に鼠径部膿瘍を形成した症例を経験したため報告する.【症例】84歳女性.認知症,脳梗塞,多発腰椎圧迫骨折,大腿骨頸部骨折,未治療の右鼠径ヘルニアが既往症にあり,ADLが高度に低下した高齢患者.進行乳癌に対して,センチネルリンパ節生検を伴う乳房切除術を施行した.術後4日目より右鼠径部に増大する腫瘤を認めた.CT検査で右鼠径ヘルニアのヘルニア嚢内に低吸収域を認め,穿刺すると膿性排液を認めた.CT画像や造影検査では,膿瘍と腸管の明らかな交通は認めず,ドレーンを留置し,抗菌薬投与による保存的治療を開始した.以降軽快し,CT画像上での膿瘍の消失を確認し,膿瘍治療19日目に退院となった.膿瘍治療50日目,食事摂取量低下などから精査目的で撮影されたCT検査で盲腸背側を中心とした後腹膜腔内の低吸収域を認めた.穿刺し膿性排液を認めたため,再び同様の保存的治療を開始した.入院時の造影検査では腸管への造影剤流入像は認めなかったものの,膿瘍治療52日目より腸液様のドレーン排液を認めた.引き続き保存的治療を継続したが,改善せず手術を施行した.手術では虫垂に穿孔部を認め,穿孔部からヘルニア嚢内膿瘍・後腹膜膿瘍を形成したと思われた.虫垂を切除し,後腹膜腔にドレーンを留置した.以降,保存的治療を継続し,膿瘍治療81日目(術後17日目)に退院となった.虫垂術後約3ヶ月の経過で膿瘍の再発や鼠径ヘルニアによる症状は認めていない.【結語】臨床所見が非典型的であったことに加え,患者は高齢かつADLが低下しており,症状認知の鈍化や自己報告能力の低下が診断の遅れの一因となったと思われた.