講演情報

[PD1-4]正常妊婦における分娩前後の肛門括約筋機能の変化と肛門失禁に関する前向き試験

大原 佑介1, 大原 玲奈2, 榎本 剛史1, 古屋 欽司1, 大和田 洋平1, 小畠 真奈2, 濱田 洋実2, 小田 竜也1 (1.筑波大学消化器外科, 2.筑波大学産婦人科)
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【背景】妊娠、分娩は肛門失禁の原因の1つとされている。分娩後の肛門失禁は重度の会陰裂傷や陰部神経障害等によって生じると考えられており、リスク因子として分娩回数、初回経腟分娩、鉗子分娩、胎児の大きさ等が指摘されている。しかし症状の性質上、積極的な受診行動に至ることが少ないと予想され、正確な有病率を知ることが難しい。海外では分娩後の肛門失禁に関する疫学的研究や、症状改善のための介入研究が複数なされているが、本邦では肛門失禁を呈する患者の後ろ向きの調査があるものの、大規模な前向きな疫学調査を行った報告はない。
【方法】分娩後の肛門失禁について網羅的な調査と解析を行う。分娩前(妊娠18週)、分娩1週後、分娩1か月後における肛門失禁の有無をCCFISにて評価し、肛門括約筋機能をマノメトリーにて計測した。分娩前後で肛門機能の各パラメータがどのように変化するかを評価した。
【結果】34名の妊婦が本研究に参加した。最大静止圧は、分娩前121mmHg、分娩1週後102mmHg、分娩1か月後117mmHgであった。最大随意収縮圧は分娩前261mmHg、分娩1週後198mmHg、分娩1か月後243mmHgであった。最大静止圧、最大随意収縮圧ともに、分娩前と分娩1週後において有意な低下を認めた。一方で分娩1か月後には自然に回復していることが観察された。CCFISに関しては、肛門失禁の自覚症状について分娩前後で有意な差は認めなかった。
【考察】妊婦は分娩1週後に肛門括約筋の機能が低下し、1か月後には回復することが、マノメトリーによって客観的に明らかにすることができた。一方でマノメトリーの測定値が低下しても肛門失禁を生じるとは限らないことがわかった。分娩後の一時的な括約筋機能の低下と回復の過程を明らかにすることができ、妊産婦、褥婦の診療において有用な指針を得ることができた。