講演情報

[PD3-6]クローン痔瘻に対する生物学的製剤を積極的に用いた根治術の中期成績

大橋 勝久1, 大橋 勝英1, 佐々木 章公2, 太田 和美2, 北川 一智2 (1.大橋胃腸肛門科外科医院, 2.十全総合病院)
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【はじめに】クローン病(以下、CD)の痔瘻病変はQOLを著しく損なうが, 根治術は難治創化し再発しやすく, ドレナージを主体としたSeton法が推奨される. 一方で近年は反対の積極的根治の意見もある. 当院では生物学的製剤を併用し積極的に根治術を行っており, その結果について検討する.
【対象と方法】H23.3月からR6.12月まで行ったCD痔瘻20例の経過を検討した. 痔瘻の評価は圧迫で排膿がない状態を「閉鎖」, すべての瘻管が閉鎖した状態を「寛解」と定義した.
【結果】初発時からの平均観察期間は117か月. 痔瘻先行型が16例(80%)で, cutting setonを含む切開開放術(重複病変で括約筋温存併用2例)が16例, loose seton2例, 非手術2例. CD未診断例は, 上下部内視鏡及び腹部造影CT検査と, 必要に応じ小腸カプセル内視鏡検査もしくはMRI enterographyを行い, 積極的に確定診断した. 他院でInfliximab投与中が4例. CD未治療15例は, 消化管や痔瘻病変の疾患活動性が高い場合にTNFα抗体(Infliximab 2例、Adalimumab11例)を, いずれの活動性も低い場合にVedolizumabを2例に導入した. 4例に薬剤変更を要したが, 2次無効は1例のみであった(皮疹増悪1例, 肺癌発症1例, 一次無効1例). 開放術症例は全例寛解し, loose seton2例は1例閉鎖したが1例は不変で開放術を追加し寛解した. 非手術2例は閉鎖状態を維持した. loose seton抜去後の一過性蜂窩織炎を1例認めたが, 非手術1例を除く19例全例が寛解か閉鎖した. 自覚症状としての便失禁は認めなかった.
【考察】本邦のガイドラインではSeton法を中心としたドレナージ術が推奨されるが, 長期Seton留置の問題点(慢性疼痛や不快感, 痔瘻がんのリスク)も無視できない. CD痔瘻でも, 根治可能なタイミングで通常型痔瘻と同様に原発巣を処理し, 生物学的製剤を活用することで, 当院では約10年間にわたり全例seton freeを達成し, その後の再発や新たな肛門手術もゼロであった. クローン痔瘻に対して, 内科的診断と治療を含めたtotal managementが有効だと考える.
【まとめ】CD痔瘻に対する生物学的製剤を併用した根治術は, 肛門外科専門医が適切に介入することで, 中期的に許容されると考える.