講演情報

[PD9-2]多施設データベースを用いた大腸癌切除後SSI危険因子の検討と周術期対策

森内 俊行1, 矢野 琢也1, 下村 学1, 奥田 浩1, 田口 和浩1, 清水 亘2, 吉満 政義3, 池田 聡4, 中原 雅浩5, 香山 茂平6, 小林 弘典7, 清水 洋祐8, 河内 雅年9, 住谷 大輔10, 向井 正一朗11, 高倉 有二12, 石崎 康代13, 石川 聖1, 安達 智洋2, 大段 秀樹1 (1.広島大学医系科学研究科消化器・移植外科, 2.広島市立北部医療センター安佐市民病院, 3.広島市立広島市民病院, 4.県立広島病院, 5.JA尾道総合病院, 6.JA広島総合病院, 7.広島記念病院, 8.呉医療センター・中国がんセンター, 9.東広島医療センター, 10.県立二葉の里病院, 11.中国労災病院, 12.中電病院, 13.広島西医療センター)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【背景】手術部位感染症(Surgical Site Infection: SSI)は,大腸手術ではその発生率が高い.SSI発症は,入院期間の延長,医療費の増加,そして長期予後の悪化につながる.本研究では,大腸癌切除術後のSSI発生の危険因子と長期予後への影響を明らかとしSSI対策を検討することを目的とした.
【対象と方法】2017年4月から2020年3月までに広島臨床腫瘍外科研究グループの大腸癌データベースに登録された,開腹または腹腔鏡下にて施行されたStage I-III初発大腸癌切除術症例の3583例を対象に後ろ向き解析を行った.表層SSI,深部SSI,臓器/体腔SSIそれぞれの危険因子と長期予後(5年全生存期間[Overall Survival: OS]、5年無再発生存期間[Relapse Free Survival: RFS])を解析した.
【結果】SSIを発症した症例は352例89.8%),非SSI群は3231例であった.SSIの内訳は,表層SSI 154例(4.3%),深部SSI 30例(0.8%),臓器/体腔SSI 194例(5.4%)であった.表層SSIの危険因子は,75歳以上,開腹手術,抗血栓薬内服,化学的前処置の未実施,輸血歴の5項目であった.深部SSIの危険因子はストーマ造設の1項目,臓器/体腔SSIの危険因子は長時間手術,男性,直腸癌,換気障害あり,術前腸管減圧の5項目であった. SSI群では5年OSおよびRFSが有意に不良で(OS: p=0.0020, RFS: p<0.0001),いずれのSSIにおいても,5年RFSは有意に不良であった(表層SSI:p=0.0115, 深部SSI:p=0.0280, 臓器/体腔SSI:p<0.0001).
【考察】大腸癌切除術後のSSIは,発生部位によって異なる危険因子を持つことが明らかとなった.表層SSIに対して,開腹手術を避け,術前の貧血予防,化学的前処置の導入が有用となる.化学的前処置は保険適応の問題もあり標準的な術前処置として確立されていないが,複数の報告もあり保険適応を含めて導入を検討するべきと考える.臓器/体腔SSIに対しては,手術時間の短縮が必要である.また抗血栓薬内服も表層SSIの危険因子として抽出されており,十分な止血操作の重要性が示唆されるが抗血栓薬内服患者とSSI発生機序は不明であり,今後更なる検討が必要である.
【結語】本研究で示された危険因子への対策に加え,多角的なアプローチでSSI予防に取り組むことが重要である.