講演情報

[PD9-4]大腸癌手術における術式別腸管前処置の変遷と今後の展望

横山 康行, 山田 岳史, 上原 圭, 松田 明久, 進士 誠一, 高橋 吾郎, 岩井 拓磨, 宮坂 俊光, 香中 伸太郎, 松井 隆典, 林 光希, 菊池 悠太, 吉田 寛 (日本医科大学付属病院消化器外科)
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【背景】大腸癌手術における機械的腸管前処置(mechanical bowel preparation:MBP)と経口抗菌薬の必要性には未だ統一見解がない。我々は、放射線不透過マーカーによる客観的評価から、ポリエチレングリコール(PEG)によるMBPが術後の小腸蠕動回復を遅延させることを報告し、現在、結腸癌では原則PEGを用いない。また、待機的手術では表層SSI発生率が低いため、術前経口抗菌薬も使用していない。術式別クリニカルパスに基づき、我々が施行してきた術式別腸管前処置の妥当性を検討した。
【対象と方法】すべての対象で減圧管を留置した閉塞性大腸癌、人工肛門造設、2カ所以上の吻合は除外した。[研究1]2010年1月から2012年6月に結腸癌に対して待機的手術を施行した症例。PEG内服群とピコスルファートナトリウム内服群(SPH群)に分けた。[研究2]2011年から2015年に待機的腹腔鏡下手術を施行した右側結腸癌症例。SPH群と前処置なし群に分けた。[研究3]2009年から2015年に待機的腹腔鏡下手術を施行した左側結腸癌症例。PEG群とSPH群に分けた。[研究4]2009年から2016年に待機的手術を施行した直腸癌症例。
各研究で前処置と表層SSI関連を検討した。
【結果】[研究1]SSIは、MBP群(152例)では5例(3%)、SPH群では2例(2%)であった(p=0.6)。[研究2]SSIは、SPH群(104例)では3例(3%)、前処置なし群では4例(5%)であった(p=0.47)。[研究3]SSIは、PEG群(70例)では0例(0%)、SPH群(133例)では4例(3%)であった(p=0.14)。[研究4]SSIは、PEG群(53例)では3例(5.7%)、SPH群では0例(0%)であった(p=0.04)。発生した表層SSIは全例Clavien-Dindo分類のGrade Iであった。縫合不全の発生率はいずれの研究の2群間において有意差を認めなかった。
【結語】直腸癌手術ではMBPの省略に議論の余地があるが、右側結腸癌では下剤は不要、左側結腸癌ではSPHで問題ない。本結果より、MBPや術前抗菌薬は一律には不要であり、適格症例の選別が重要であると考える。