講演情報

[R10-7]YouTubeを用いた低位前方切除後症候群(LARS)に関する情報提供の取り組み

榎本 浩也1, 佐藤 正美2, 秋月 恵美3, 仕垣 隆浩4, 磯上 由美5 (1.国際医療福祉大学病院消化器外科, 2.東京慈恵会医科大学医学部看護学科, 3.札幌医科大学消化器・総合,乳腺・内分泌外科学講座/札幌いしやま病院, 4.久留米大学医学部外科講座, 5.フリーランス皮膚・排泄ケア認定看護師)
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【背景】
直腸癌に対する肛門温存手術の増加に伴い、術後排便障害(Low Anterior Resection Syndrome: LARS)に悩む患者が増加している。LARSは便意切迫、頻便、失禁、排便コントロール困難など多彩な症状を呈し、QOLに影響を及ぼす。この影響は身体的側面に留まらず、精神的苦痛や社会的孤立感を招くことも少なくない。しかし、患者の認知度は依然として低く、術前後に十分な情報提供を受けていない症例も少なくない。近年、インターネット、特にYouTubeなどの動画共有プラットフォームは、患者や家族にとって重要な医療情報源となっている一方で、科学的根拠に乏しい不正確な情報も多く拡散されており、誤解や不安を助長する懸念がある。
【目的】
本研究の目的は、LARSに関する信頼性の高い情報を科学的根拠に基づき整理し、非医療者に理解しやすい表現で動画として発信することである。医療者視点のみならず、患者の実体験を重視し、共感を得られる内容とすることを目指した。
【方法】
大腸外科医、看護師(WOCNを含む)、LARSを経験した直腸癌サバイバーが協働し、LARSに関する解説動画10本を制作した。内容の正確性と共に、語句の平易さ、表現のわかりやすさにも配慮した。イラスト、動画編集、音声入れは制作メンバーで行い、オンライン会議およびSlackでの意見交換を重ね、メンバーの合意を得ながら制作した。動画はYouTubeチャンネル「直腸がん大事典」にて、2024年7月から2025年4月にかけて順次公開した。
【結果】
公開した10本の動画の累計再生回数は約8500回、総再生時間は約300時間であった。視聴者の年齢層は55〜64歳が63.2%を占めた。
【結論】
LARSへの正しい理解と適切な対処を促すには、科学的根拠に基づく情報を患者に寄り添う形でわかりやすく発信することが重要である。身体・精神・社会の多面的な影響を踏まえた情報提供は、患者の不安軽減や社会的孤立の予防にも寄与すると考えられる。本プロジェクトは、医療者と患者が協働することで、正確性と共感性を両立した情報提供が可能であることを示した。今後も時代に即した媒体を活用し、質の高い医療情報を継続的に発信し、患者支援を強化する必要がある。