講演情報

[R12-6]腹腔鏡下直腸固定術後に脊椎椎間板炎を発症した5例

三浦 康之1, 栗原 聰元2, 木村 駿悟1, 渡邉 健太郎1, 小梛 地洋1, 吉田 公彦1, 甲田 貴丸1, 長嶋 康雄1, 鈴木 孝之1, 鏡 哲1, 金子 奉暁1, 牛込 充則1, 船橋 公彦3, 的場 周一郎1 (1.東邦大学医療センター大森病院一般・消化器外科, 2.汐田総合病院外科, 3.横浜総合病院消化器外科)
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【はじめに】
直腸脱に対する手術療法である直腸固定術には、メッシュの使用や固定方法の違いにより複数の術式が存在する。当院では、メッシュを使用しないnative tissue repairとして、腹腔鏡下にて直腸を岬角へ非吸収糸3針で固定している。直腸固定術の重篤な合併症として脊椎椎間板炎は極めて稀であるが、今回われわれは5例を経験したため報告する。
【対象および方法】
2009年5月~2025年3月に当院で直腸脱に対して腹腔鏡下直腸固定術を施行した304例を対象とし、術後に脊椎椎間板炎を発症した症例を後方視的に調査、検討した。
【結果】
術後に脊椎椎間板炎を発症した症例は5例(1.64%)であった。平均年齢は82.4(75~92)歳、性別は女性4例、男性1例であった。糖尿病や免疫低下などの易感染性の既往は認めなかった。主症状は発熱のみ1例、腰痛のみ1例、発熱と腰痛を伴った症例が3例であった。
血液培養からはBacteroides fragilis、MRSA、緑膿菌、E.coliがそれぞれ1例ずつ検出され、1例は陰性であった。平均入院期間は52.8(27~66)日であった。再発例はみられなかったが、E.coliが検出された92歳の症例は感染性心内膜炎を併発し、不幸な転帰をたどった。
【考察】
椎間板炎は診断が困難であり、不明熱として見過ごされやすい。直腸固定術後に腰痛や発熱を呈した場合には本疾患を念頭に置くべきである。MRI検査においても典型像が乏しく、初期では信号変化のみで判断が難しい。治療はまずは抗生剤投与であり、期間は6-8週間と長期化する傾向にある。4週間未満の治療では再発率が高くなるとの報告もある。予防には、椎体の前縦靭帯への縫合方法の工夫、術中の十分な洗浄、固定後の術中大腸内視鏡による固定糸の腸管内露出の有無の確認などが重要と考えられる。
【結語】
腹腔鏡下直腸固定術後の脊椎椎間板炎の発症は稀ではあるが、高齢患者では重篤な経過をたどる可能性があるため注意を要する。今回5例を経験したため、若干の文献的考察を加え報告する。