講演情報

[R16-4]梅毒性直腸炎の1例

森 俊治1, 田中 香織1, 山田 英貴2 (1.森外科医院, 2.山田外科内科)
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症例は40歳,男性.25歳時肛門性交によるB型肝炎(治癒).1週間前より便秘および肛門の違和感,便の狭小化,下血を主訴に当院を受診した.直腸肛門指診で直腸前壁にザラザラとした不整な粘膜を触知し,手指への血液の付着を認めた.腫瘍性病変は触知せず,肛門疾患も認めなかった.腹部が軽度膨満し臍周囲に軽度の圧痛を認めたが,腹部単純X-pでは異常を認めなかった.リンパ節腫大や皮疹は認めなかった.下部消化管内視鏡検査を行ったところ,下部直腸前壁に辺縁不整な深掘れした縦走潰瘍を認めた.そのさらに口側に発赤を伴うタコいぼ様粘膜隆起を数個認め,その頂部にいずれも不整潰瘍を伴っていた.また,これらの病変は縦走配列していたが,最も口側にある同様の粘膜隆起病変は下部直腸後壁に存在していた.血液検査で血清梅毒反応のRPR 99 R.U.,TPHA 640倍と高値を示しため梅毒と診断した.潰瘍部生検の病理検査ではHE染色においては非特異的炎症所見のみであったが,梅毒免疫組織染色でTreponema Pallidumが検出されたため梅毒性直腸炎と診断した.アモキシシリン1500mg/日内服により症状は改善し出血や便秘は治った.アモキシシリン投与直後2日間38.5度の発熱がありJarish-Herxheimer反応と考えられた.投与後7日目前後に起こる皮疹は認めなかった.血清梅毒反応は低下して,内服約1ヶ月後に行った下部消化管内視鏡検査で直腸潰瘍は瘢痕化していた.複数回にわたって問診を行ったが,最近の肛門性交の既往は確認できず感染経路は不明であった.
本邦では梅毒患者が急増しており社会問題となっているが,消化管梅毒は梅毒患者の0.1%と言われているが,そのほとんどが胃梅毒とされ,直腸梅毒は非常に稀で本邦での報告例は16例しかなかった.当院で経験した梅毒性直腸炎について若干の考察を加えて報告する.