講演情報

[R2-3]狭窄を伴うS状結腸転移を示した乳腺浸潤性小葉癌の1例

山本 匠1,2, 福長 洋介1, 北川 祐資1, 三木 弥範1, 上原 広樹2, 井 翔一郎2, 山田 典和2, 五十嵐 優人2, 萩原 千恵2, 小林 壽範2, 森 至弘2, 渡邉 純2 (1.関西医科大学総合医療センター, 2.関西医科大学附属病院)
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【はじめに】乳癌の遠隔転移は骨・肺・肝への血行性転移が一般的であるが, 消化管への転移は稀である. 今回, 乳癌術後5年目にS状結腸転移をきたした乳腺浸潤性小葉癌 (invasive lobular breast carcinoma: ILC)の1例を経験したため報告する. 【症例】50代女性. 右乳腺浸潤性小葉癌に対して皮膚温存乳房切除術・センチネルリンパ節生検を施行し, ILC (pT3N0M0 pStageⅡB)に対して術後補助化学療法・ホルモン療法を施行. 再発所見なく経過していたが, 術後5年目に右腸骨への骨転移が判明し, 同時に施行されたPET-CTで偶発的にS状結腸にFDGの集積を認めた. 臨床症状は認めなかったものの, 下部消化管内視鏡検査でS状結腸に粘膜下腫瘍様病変および高度狭窄を認めた。術前生検では悪性所見は得られなかったが、, ILCのS状結腸転移と考え腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した. 摘出標本における病理組織学検査で索状配列を形成する上皮性腫瘍を認めたが, 原発性大腸癌を疑うような腺管形成や腫瘍の粘膜面への露出は認めなかった. 免疫組織化学染色ではCK7陽性, CK20 陰性, E-cadherin陰性であり, ILCの転移と考えられた. 術後経過は良好で第9病日に退院となった. 【考察】ILCは他の乳癌組織型と比較して腸管転移をきたしやすく, 腸管転移率は乳管癌の1.1%に対し4.5%と高率であることが報告されている. ILCではE-cadherin異常がしばしば認められ, この接着因子の欠損が腫瘍細胞の遊走性や浸潤性に関与し, 遠隔転移が高率である可能性が示唆されている. 腸管転移は初期に無症状で, 進行すると狭窄や出血により診断されることが多いが, 原発性大腸癌と異なり, 粘膜面に変化が乏しく内視鏡診断が困難な場合も多い. 本症例でも粘膜面の腫瘍性変化は認められず, PET-CTの集積所見が診断の契機となった. 乳癌の腸管転移に対する外科的切除が予後の延長に寄与するという報告はないが, 症状緩和を目的とした外科治療は有用であると考えられる. 本症例のように乳癌既往歴のある患者の消化管腫瘍では, 転移性腫瘍を常に考慮し治療にあたる必要があると考えられた.