講演情報

[R8-4]80歳以上の大腸癌手術症例における他臓器合併切除の検討

近藤 宏佳, 大塚 英男, 宮崎 遼, 柳橋 進, 宅間 邦雄, 森田 泰弘 (東京都立多摩総合医療センター)
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【背景】
高齢者に対する大腸癌手術は増加しており、T4b症例に対しては他臓器合併切除を要することも少なくない。一方で、高齢者は身体的予備能や合併症リスクが高く、術後転帰の予測は困難である。近年の報告では、高齢を理由に手術を控えるべきではないとの意見もある。本研究では、80歳以上の大腸癌症例において、合併切除を伴う手術の周術期成績と退院形態への影響を検討した。
【対象と方法】
2014〜2019年に当院で施行された80歳以上の大腸癌定時手術329例を対象とした。合併切除の有無により2群に分け、年齢、性別、ASA、術前Hb、CEA、CA19-9、手術アプローチ方法、術後合併症、術後在院日数、退院先(自宅/転院)などを後方視的に比較検討した。
【結果】
他臓器合併切除群は37例(11.2%)、標準手術群は292例(88.8%)であった。合併切除臓器は最多が腹膜/腹壁/後腹膜(28例, 75.7%)であり、腸管(5例, 13.5%)、大網(3例, 8.1%)、膀胱(3例,8.1%)が続いた。
他臓器合併切除群では手術時間がやや長い傾向(中央値:437分 vs 419分, p=0.01)があり、出血量(122 ml vs 50 ml, p<0.05)が有意に多く、術中侵襲が大きいことが示唆された。一方で、CD Grade 3以上の合併症率に有意差はなく(2.7% vs 4.5%, p=0.619)、術後在院日数(中央値:10日 vs 10日, p=0.124)や自宅退院率(86.5% vs 94.5%, p=0.183)にも有意差を認めなかった。背景因子のうち、開腹率(35.1% vs 14.7%, p<0.05)と術前Hb(中央値:9.7g/dl vs 11.8g/dl, p<0.05)に差を認めた。
【考察】
80歳以上の高齢大腸癌患者における合併切除は、術中侵襲の増大にはつながるものの、術後重篤合併症や退院転帰には影響しなかった。高齢者においても、全身状態や病変に応じて適切に手術が行われれば、合併切除も安全に遂行可能であることが示唆された。
【結語】
80歳以上の大腸癌手術症例において、合併切除は術中侵襲の増大に関与するが、術後合併症や退院先には影響を与えず、安全に実施可能であった。