講演情報

[SY1-2]局所進行直腸癌に対する術前治療の治療成績 -upfront surgery、CRT、TNTの比較検討-

佐々木 将磨, 塚田 祐一郎, 山東 雅紀, 長谷川 寛, 池田 公治, 西澤 祐吏, 伊藤 雅昭 (国立がん研究センター東病院大腸外科)
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【背景】局所進行直腸癌に対する術前治療として、局所制御を目的とした化学放射線療法(CRT)に遠隔転移制御を目的とした化学療法を追加するtotal neoadjuvant therapy(TNT)の有用性が、欧米を中心に報告されている。しかし本邦からの報告は少なくコンセンサスは得られていない。当院では2020年よりextramural vascular invasion(EMVI)や側方リンパ節転移を有する再発高リスク症例に対して積極的にTNTを導入している。【目的】局所進行直腸癌におけるupfront surgery、CRT、TNT後の治療成績を比較検討する。【方法】単施設後ろ向きコホート研究である。対象は2010-2024年に根治手術が施行されたcStageII-IIIの直腸癌症例のうち、初診時MRIでcircumferential margin(CRM)2mm未満、EMVI、短径7mm以上の側方リンパ節のいずれかを認めた症例とした。Upfront群、CRT群、TNT群に群別し術後治療成績を比較した。【結果】解析対象はupfront群111例、CRT群67例、TNT群83例の計261例であった。手術時間やClavien Dindo grade IIIa以上の術後合併症の頻度は各群で有意差を認めなかった。切除標本でのCRM(pCRM)が1mm以下の症例割合は、upfront群20.7%、CRT群13.4%、TNT群7.2%でTNTが最も低かった(P=0.030)。病理学的完全奏効(pCR)はCRT群6.0%、TNT群18.1%でありTNT群で有意に高かった(P=0.029)。観察期間中央値はupfront群60か月、CRT群か52月、TNT群18か月。全再発の割合はupfront群44.1%、CRT群28.4%、TNT群16.9%、局所再発は順に12.6%、7.5%、2.4%、遠隔転移再発は順に33.3%、20.9%、14.5%であり、すべての再発形式においてTNT群で最も少なかった(それぞれP<0.001、P=0.035、P=0.008)。3年OS/RFSはupfront群87.0/60.1%、CRT群95.2/72.6%、TNT群96.2/74.7%であり、統計学的有意差は認めなかった(それぞれP=0.26、P=0.085)。【結論】局所進行直腸癌に対するTNTは術後短期成績を悪化させることはなく、pCRM陽性割合を低下させた。TNT群の術後観察期間が短く長期成績は断定できないが、すべての再発形式に関してTNT群が最も少ない可能性が示唆された。またTNTはCRTと比較してpCR割合が高く、watch and waitを見据えた治療としての有用性も期待される。