講演情報

[SY2-10]術前CRP-Albumin比を指標とするクローン病の安全な外科手術適応基準

永吉 絹子, 吉村 晴香, 久野 恭子, 藤本 崇聡, 田村 公二, 水内 祐介, 堀岡 宏平, 池永 直樹, 仲田 興平, 大内田 研宙, 中村 雅史 (九州大学医学研究院臨床・腫瘍外科)
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[背景]近年ではクローン病に対して様々な生物学的製剤が使用されており、外科治療症例の背景が変わりつつある。一方で内科治療抵抗症例も少なからずあり、外科治療の適切なタイミングを判断するのが難しいことも多い。CRP-Albumin比(CAR)はクローン病の疾患活動性を反映しており、術直前でも簡便に評価することができ、周術期合併症リスクの予測因子としても活用しうる。今回、我々は術前CARを用いた安全な外科治療の適応基準について検証した。[方法]2010~2024年までに外科的治療を施行したクローン病208例について、術前CARと患者背景との関連を検証し、術後合併症リスクを予測する術前指標としてのCAR値を同定し、その有用性を評価した。
[結果]術前CARは若年、男性、活動性の高さと関連していたが、生物学的製剤を含む術前治療の有無では違いは認めなかった。活動性により術前CARの合併症リスクに対する感度が異なるため、感度が最も高い穿通型症例(n=111)において、陰性的中率が最大のカットオフを用いて術前CAR高値・低値の2群に分け検証した。術前CAR高値群(n=53)では低値群(n=58)と比べて、男性、IOIBDスコア3以上が有意に多く見られた。術前CAR高値群では低値群と比べて、開腹手術が多く選択されており、手術時間が長く(359分 vs. 304分, P=0.03)、出血量も多かった(316g vs. 200g, P=0.03)。術後全合併症は術前CAR高値群で定置群と比べて有意に多く(56.6% vs. 19.0%, P<0.0001)、腸閉塞(13.2% vs. 1.7%, P=0.01)、創感染(18.9% vs. 5.1%, P=0.02)も多くみられた。プロペンシティスコアマッチングを用いて術前背景因子を調整し、穿通型症例の術前CAR高値群(n=31)と低値群(n=31)で改めて術後合併症リスクを比較した。背景因子調整後もCAR高値群では低値群と比べて、術後全合併症(58.1% vs. 19.4%, P=0.002)・創感染(19.4% vs. 3.2%, P=0.04)が有意に多い結果となった。
[結語]術前CAR高値は術直前の病勢を反映しており、術前の内科的治療の内容に関わらず、周術期合併症リスクを予測する因子となる。術前CARは、内科治療経過中に安全な外科治療のタイミングを図るための簡便かつ有用な指標となりうる。