講演情報

[VPD2-5]前側方低位筋間痔瘻に対する瘻管壁利用括約筋温存術の課題と対策

小村 憲一 (小村肛門科医院)
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瘻管壁利用括約筋温存術とは[二次口から瘻管をくり抜き、内外括約筋間から引き出して、切開開放する。 開放された瘻管壁を剥離し、切断された括約筋を縫合。縫合部の上に遊離した瘻管壁を被せ、瘻管壁と粘膜、肛門上皮両側断端を縫合し括約筋縫合部を被覆して保護する。さらに、二次口からの瘻管くりぬき部は縫合閉鎖する]という術式である。本術式は、原発口および原発巣を直視下で確実に処理でき、括約筋切開部は縫合再建されるため、根治性と肛門機能温存を両立することが可能である。
2020~2024年に本術式を23例に施行。平均年齢41歳、平均手術時間63.8分、平均治癒期間85日。再発例はなかったが、2例で術後10日前後に二次口側に炎症が波及。保存的に改善せず、局所麻酔下で肛門縁外側にドレナージを追加し、二次治癒を得た。いずれも肛門の変形は軽微で、便漏等の機能障害は認めなかった。課題は2点挙げられる。第一に、原発口レベルの縫合部は癒合していたが、内外括約筋間から瘻管を抜き出した部位が哆開し、二次口側に炎症が波及した点である。対策:(1) 筋縫合を行っても筋肉同士は直接癒合せず、結合織を介して癒合するため、単に括約筋のみを縫合するのではなく、周囲の結合組織も含めて一括して大きく縫合し、癒合を促進すること。(2)すべての瘻管処理を行った後に括約筋縫合をしていたが、内外括約筋間から瘻管を抜き出した後、その欠損部を瘻管切開する前に先行して縫合すること。切開前に縫合することで、生理的な位置関係を保ち、緊張少なく縫合できる。(3)肛門縁外側の皮膚ドレナージを大きめに作成し、必要に応じて外括約筋表面の切開を追加すること。第二に、瘻管が細く脆弱な場合には、瘻管壁による筋縫合部の被覆が困難となる。対策:瘻管切除範囲を最小限に留め、括約筋縫合部は粘膜縫合で被覆する。本術式は、瘻管形状への対応や縫合不全対策といった改良の余地を残しているが、再発はなく、合併症が生じた場合でも局所麻酔下での簡便な処置で対応可能であった。本術式は、瘻管すべてを直視下で処理できる根治性と肛門機能温存を両立し得る有用な術式である。対策により更なる成績の向上に期待したい。