講演情報

[VSY3-2]年間後出血ゼロを達成できた、痔核結紮切除術の振り返りと工夫

大橋 勝久1, 大橋 勝英1, 佐々木 章公2, 太田 和美2, 北川 一智2 (1.大橋胃腸肛門科外科医院, 2.十全総合病院)
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【はじめに】痔核結紮切除術の後出血は, しばしば救急対応を迫られ医師看護師はストレスを感じ, 患者の苦痛も計り知れない. 後出血ゼロは誰しもが求めるが, 解決できない永遠の悩みとも言える.
【目的と方法】当院の痔核根治術のコンセプト変遷と止血を要する後出血(以後後出血率と表記)を, 前向き登録データベースから後方視的に評価し, 後出血の原因検索と対応結果を検討する.
【結果】平成26年から令和6年の11年間に, 内外痔核を切除する根治術(適宜ALTA併用)を1,894例行い, 全期間の後出血率は2.0%だった. 当初は根部を刺通結紮し半閉鎖する定型的LE(+ALTA or E・A)だったが, 習熟に反比例して後出血率が高く推移した(H26: 0%, H27: 1.1%, H28: 0.5%, H29: 1.2%, H30: 1.8%, H31/R1, 2.0%). H31/R1に術式を, 歯状線まで粘膜切離し背側を袋状に剥離して結紮切除する袋状切離(Pocket Dissection以下PD)に変更したところ, 後出血率は一時激減したが再び増加した(R2: 0%, R3: 0.6%, R4: 1.4%: R5: 3.0%). 出血部を内視鏡的評価したところ, 痔核背側血管の過剰な凝固切離や過度な止血による虚血変化がその原因と考えられ(Efficacy of Endoscopic Evaluation and Hemostatic Intervention for Post-hemorrhoidectomy Bleeding. J Anus Rectum Colon. 2025 Jan 25;9(1):162-165), 以後過剰な剥離止血操作を慎むことでR6年に後出血率ゼロを達成した.
【考察】外科手術の上達に伴い成績は向上するはずだが, 過渡期はその工夫が裏目となることもある. 前期LEと後期PDはいずれも習熟に反して後出血が増える時期があり, 振り返ると過剰な手技(過度な根部剥離や止血操作)がみうけられた. また, 視認性の良好な内視鏡的評価により, 原因である虚血変化を見出し対策することで, 以後令和7年4月現在まで後出血を認めていない. 自身の手術手技をデータベース管理し, アウトカムを客観的に評価することで, 後出血率ゼロを達成できたと考える.
【まとめ】外科手術は試行錯誤の過程が大切で, 失敗から学ぶことも多い. 当院の経験では, 手術手技の慣れによる過度な手術操作が一因と考えられた.