講演情報

[VWS2-3]多施設データベースを用いた肥満症例に関する大腸手術の周術期成績の検討および当院における肥満症例に対する大腸手術の工夫

田口 和浩, 下村 学, 奥田 浩, 矢野 琢也, 別木 智昭, 石川 聖, 渡邊 淳弘, 佐藤 沙希, 森内 俊行, 塩崎 翔平, 松原 一樹, 山口 瑞生, 大段 秀樹 (広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学)
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背景と目的:近年、肥満患者の増加に伴い、肥満症例に対する大腸手術の機会も増加している。肥満は手術手技の難易度を高め、術後合併症のリスクを増大させる可能性があるが、実臨床における具体的な影響は明確にされていない。本研究では、多施設共同の大腸癌データベースを用いて、肥満症例における大腸手術の周術期成績および術後合併症を検討し、非肥満症例との比較を通じてその特徴と課題を明らかにすることを目的とした。さらに、当院における肥満症例に対するロボット支援下大腸手術の実際をビデオで供覧し、手術手技上の工夫を紹介する。
方法:2017年1月から2019年12月までに、県内の多施設大腸癌データベースに登録された、Stage I-III大腸癌(結腸癌および直腸癌)に対して開腹または腹腔鏡下で切除術を受けた症例を対象とした。BMIに基づき、BMI<25を非肥満群、25≦BMI<30を軽度肥満群、BMI≧30を高度肥満群と定義し、各群の患者背景および短期手術成績を比較検討した。
結果:対象は合計2,943例で、非肥満群が2,270例(77%)、軽度肥満群が580例(20%)、高度肥満群が93例(3%)であった。患者背景においては、肥満群ほど年齢が若く(平均年齢:71.4歳、69.9歳、67.4歳、p<0.001)、チャールソン併存疾患指数(CCI)2以上の割合が高かった(21.5%、24.1%、32.2%、p=0.027)。短期手術成績では、手術時間(中央値:214分、237分、280分、p<0.001)、出血量(中央値:30 mL、40 mL、50 mL、p<0.001)が肥満群で有意に多く、郭清リンパ節個数(中央値:19個、17個、15個、p<0.001)は有意に少なかった。D3郭清の割合も肥満群ほど低かった(67.3%、65.0%、58.1%)。一方、術後合併症の発生率および在院日数には有意差を認めなかった。
結論:肥満症例における大腸手術では、内臓脂肪や浸出液によって術野の確保が困難な状況が生じやすく、手術侵襲が大きくなる一方で、リンパ節郭清度が低下する傾向が認められた。ガーゼなどを使用して、助手とこまめに連携しながら小範囲ずつ明瞭な空間を作っていきつつ、確実な剥離層を見出しやすいポイントから丁寧に手術操作を進めていくことが肝要になる。