講演情報

[WS4-4]IBDの有無による臨床像の違いを踏まえた若年者痔瘻診療の現実と課題

指山 浩志, 浜畑 幸弘, 小池 淳一, 安田 卓, 中山 洋, 坪本 敦子, 川西 輝貴, 高野 竜太朗, 鈴木 綾, 城後 友望子, 黒崎 剛史, 堤 修 (辻仲病院柏の葉)
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目的:IBDの有無による臨床像の違いを踏まえ、10代における痔瘻診療の現実と課題を明らかにする。
対象と方法:2009年6月から2025年3月までに当院で加療した10歳代の痔瘻・肛門周囲膿瘍266例(男性240例、女性26例)を後方視的に検討し、IBDの有無による臨床像や治療方針の違いを比較した。
結果:症例全体では単純痔瘻136例(51%)、複雑痔瘻85例(31%)、肛門直腸周囲膿瘍45例(17%)であった。女性では単純痔瘻8例(31%)、複雑痔瘻9例(35%)と、複雑痔瘻の割合が高かった。手術(切開排膿を含む)は220例(83%)に延べ288回行われた。乳児痔瘻の既往は13例で、全例が16歳以下の男性であった。うち10例は単純痔瘻で、その7例は根治術なしに治癒した。クローン病症例は50例(男性44例、女性6例)で、複雑痔瘻27例(52%)が最多であり、28例(56%)でバイオ製剤が導入され、8例(16%)では長期Seton管理が行われた。他に潰瘍性大腸炎3例、非特異的腸炎様病変15例を認めた。これらには肛門所見からクローン病が疑われながらも、大腸内視鏡や生検で確定診断に至らない疑診例が含まれ、診断的手術や確定診断前のバイオ導入を要した例もみられた。
考察:一般の痔瘻の男女比は2.8〜5.5:1とされるが、本報告では9.2:1と男性に高率であり、10代痔瘻の特性を示唆する。乳児痔瘻が男児に多いことと整合し、10代でも同様の傾向が認められた。クローン病症例の男女比は7.3:1で、一般的な2:1と比べても男性優位であった。乳児痔瘻の遷延を含む単純痔瘻は保存的治療で良好な経過を示す一方、クローン病例では複雑痔瘻を伴い多手術化しやすく、早期のバイオ導入とSeton管理が鍵となる。特に診断未確定の“クローン病疑い”症例では診療上の判断が困難であり、治療戦略の柔軟性と多診療科での連携が重要である。若年者のQOLと将来性を見据えたマネジメントのあり方を報告する。