会長あいさつ
第36回日本消化器癌発生学会総会開催のご挨拶
Precision Surgeryの実現にむけて
〜オールジャパンで取り組むワールドクラスの橋渡し研究〜
第36回日本消化器癌発生学会総会 会長 三森 功士 (九州大学病院別府病院 病院長) |
本学会は「消化器癌の発生と進展の解明」を目的として、1989年に研究会として発足し、1997年には日本消化器癌発生学会として正式に設立されました。初代の大原毅先生をはじめ、歴代の理事長には日本外科学会の著名な先生方が就任され、学会の発展に大きく寄与してきました。2017年1月には一般社団法人化し、基礎研究者と臨床医(特に外科医)が議論を深める場として広く認知されています。
しかし近年、外科医の研究離れや高齢化が深刻な課題となっています。さらに、外科医自体の減少傾向も顕著です。日本外科学会の武冨紹信理事長は、この課題に対し、インセンティブ導入やワークライフバランスの見直し、アーリーエクスポージャー教育など、多方面から取り組んでいます。その中でも特に注目すべきは、「Precision Surgery(精密外科医療)」の推進です。これは、外科手術をより精密かつ個別化する試みです。
2015年にオバマ元大統領が発表した「Precision Medicine Initiative(精密医療イニシアティブ)」では、患者の遺伝情報やライフスタイル、環境要因を考慮した個別化医療が目指されています。この取り組みの具体例として、①ゲノム解析を活用して病気の原因や治療法を特定する、②薬剤の効果や副作用を考慮した個別化医療の推進、③大規模データの共有を通じた研究支援、④最新医療技術の迅速な導入などが挙げられます。このアプローチは、がん治療や希少疾患の研究で特に成果を上げています。
患者ごとのゲノム情報が薬剤選択に活用されるように、手術や治療法も個別化されるべきです。本総会では、日本外科学会からの委嘱を受け、“いつの日かこのPrecision Surgeryに役立つ(かもしれない)世界最新の技術や知識など様々な橋渡し研究の成果について、ご紹介いただき、どのように活用すべきかなどについてご議論いただきたい”と計画しております。
Precision Surgeryにつながる(かもしれない)橋渡し研究について、当学会において発足した諮問委員会のお力を借りて、様々な興味深いホットなテーマをご提案いただき、優れた演者や座長のご紹介をいただきました。しかし、実際にご提案を活かして、如何にPrecision Surgeryを構築するかは、議論にご参加いただく皆さまのお力によるものです。本会終了後に世界の外科学の新しい夜明け、ひいてはがん治療学における新たな幕があがることを願っています。