講演情報

[KSY1_04]認知機能低下の早期発見と予防戦略:最新の知見と理学療法への応用

鵜飼 良誠 (はやし整形外科リハビリクリニック, 京都橘大学大学院 健康科学研究科)
略歴(主な学歴・職歴)
【学歴】
2018年 京都橘大学 健康科学部 理学療法学科 卒業
2025年 京都橘大学大学院 健康科学研究科 博士前期課程 修了
2025年 京都橘大学大学院 健康科学研究科 博士後期課程 入学 
【職歴】
2018年 医療法人一仁会(現・清水会)脳神経リハビリ北大路病院 リハビリテーション部 入職
2023年 訪問看護ステーション結笑 入職
2026年 はやし整形外科リハビリクリニック 入職
【資格】
2023年 認定理学療法士(脳卒中)
【学術研究業績】(主な論文・表彰・著書など)
K. Ukai, K. Nishimoto, H. Ito, K. Maeda, R. Yamauchi, O. Katayama, S. Murata, K. Morita, and T. Kodama, "Age-Related Differences in Neural Networks for Error Detection and Inhibitory Control: A LORETA-Based Comparative Study," Brain Sciences, 16(6), 2026.
 超高齢社会を迎えた我が国において、認知機能低下や認知症に対する予防的アプローチは喫緊の課題となっている。理学療法士は対象者と密接に関わる専門職として、運動療法や認知的介入、生活環境の調整等を通じた予防や早期発見に極めて重要な役割を担っている。
 認知症に対しては、診断後に進行抑制や症状軽減を目的とした介入が行われているが、認知症の発症に先立ち、脳内では病理的変化が進行していることが明らかとなっている。そのため、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)や更に前段階である前臨床期に生じる微細な変化を早期に捉え、適切な介入に繋げることが重要である。認知症予防においては、有酸素運動、レジスタンストレーニング、多重課題トレーニングなどが認知機能の維持・向上に寄与することが報告されている。また、近年では歩行速度の低下やつまずき・転倒リスクの増加、多重課題下における歩行など複雑な歩行パフォーマンスの低下が、認知症や認知機能低下の早期徴候として注目されている。さらに、こうした身体的・行動的な変化だけでなく、神経生理学的指標の微細な変動を捉えることも、より確実な早期発見につながる新たな手がかりとして示唆されつつある。しかし、現在の臨床現場における実際のスクリーニングは従来の神経心理学検査に依存しがちであり、これらの検査は標準化されている反面、顕在化した機能低下しか捉えられない側面が大きく、時間的制約や学習効果の影響もあり、前臨床期の微細な変化を客観的に捉えることは容易ではない。また予防的介入においても、対象者の認知機能や身体予備能に応じた個別最適化(テーラーメイド・アプローチ)には至らず、画一的なプログラムに留まりやすい。
 これらの課題を克服すべく、新たなアプローチが模索されている。早期発見においては、ウェアラブルデバイス等を活用したデジタルバイオマーカーの開発や認知機能低下に関連する脳活動の変化についての研究が進んでおり、介入面においても身体・認知・社会活動など様々な要素を組み合わせていく考え方や、特定の認知ドメインに的を絞った個別化プログラムの検証が行われている。
 本講演では、研究の立場から最新の臨床知見に加え、演者らによる「抑制機能とエラー検知能力」に着目した早期スクリーニング研究について報告する。研究と臨床実践を融合し、理学療法士が身体と認知の双方から認知機能低下に介入するための、強固な基盤構築の展望を示したい。