講演情報

[JO2-02]外傷後遅発性に出現した下肢脱力および背部痛に対する予測処理に基づく徒手理学療法介入の一症例

*相原 忠洋1 (1. Professional Physio Partners株式会社)

キーワード:

予測処理、外傷後症状、徒手理学療法

【症例紹介】 50歳女性。電車内で前方の乗客が衝突し救急搬送。胸部打撲等と右頚肩部痛を訴えたが画像上異常なく帰宅。初期症状は数日で消失したが、1週間後より右下肢しびれ・脱力、背部・心窩部痛が出現。大学病院精査でも原因不明で鎮痛薬のみ処方。1ヶ月間休職し、所属企業からの相談で当サロンにてコンディショニングを開始した。【評価とリーズニング】 初診時、歩行跛行が著明、右下肢MMT3⁻、右下肢全体に5/10の感覚鈍麻を認めた。Th12付近に持続痛(NRS6〜9)があり心窩部痛も連動。胸腰移行部棘突起に顕著な圧痛、背部キブラーロール検査では激痛と皮膚滑走性の著明低下を認めた。左右大腰筋(特に右)に低緊張・圧痛、横隔膜に低緊張、左右鎖骨下筋・第1肋骨周囲に触覚過敏、左右C3/4椎間関節に圧痛を認めた。Keel STarTBackスクリーニングはMedium riskであった。ケンプテスト、神経動力学的検査において示唆所見は認めなかった。諸症状は受傷1週間後に出現しており、急性組織損傷の関与は限定的と判断した。従って、受傷時の衝撃を契機としたアロスタティック応答の過剰駆動および自律神経系の変調の関与を想定し、局所組織への介入ではなく、身体内部状態の予測処理の再構成を含む中枢神経系への介入が必要と判断した。【介入内容と結果】胸腰移行部(Th12周囲)に対する横突起への腹側方向の徒手刺激および背部軟部組織へのリリース、腹部安定化練習、ならびに頸椎C3/4レベルに対する徒手牽引を含む介入を実施した。これらは体幹および頸部領域からの感覚入力と中枢における情報処理の統合過程の調整を企図したものである。セッション5回終了時、歩容の改善とともに日中の背部痛および心窩部痛の消失を認めた。【考察】 症状解釈としては中枢感作や機能的神経症状の関与も考えられるが、本症例では身体内部状態の予測処理の観点から考察した。すなわち、受傷時の衝撃を契機とした予測処理の変調により、触覚過敏(背部痛)や、防御的運動出力(下肢脱力)といった反応が生じた可能性があると考えた。これに対し、頸椎および胸腰移行部への非侵害的徒手介入や、骨盤・胸郭の協調運動を伴う腹部安定化練習は、体幹および頸部領域からの感覚入力の変調を通じて中枢における予測処理の更新に影響を与えた可能性がある。その結果として、自律神経活動を含む生体反応の調整および症状の軽減に関連した可能性が示唆される。以上のことから、身体内部状態の予測処理を考慮した臨床推論は、従来の運動器・生体力学的アプローチで対応に難渋する症例に対する新たな臨床思考の枠組みとなり得る可能性が示唆された。 【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に学会発表の趣旨および個人情報匿名化を口頭で十分に説明し、同意を得た。発表者はCREDITS倫理・行動規範コースver.2.0を修了し、倫理的コンプライアンスを遵守している。