講演情報

[JS1-01]尿意時の呼吸停止と全身の過緊張を伴う切迫性尿失禁に対するFascial Manipulation®介入の1症例

*前原 由貴1,2 (1. conditioning salon RECHARGE+、2. ほしやま整形外科医院)

キーワード:

切迫性尿失禁、ファシア、呼吸

【症例紹介】
症例は37歳女性、BMI24.5 kg/m²、職業はパーソナルトレーナー。主訴は急な尿意による失禁であった。約7年前より症状を認め、薬物療法、骨盤底筋トレーニング、排尿日誌および心理カウンセリングにより症状は軽減したが寛解に至らず、代替的介入を求めた。既往に右重度足関節捻挫および心的外傷後ストレス障害を認めた。また、約5年前の交通事故による顔面強打・頸椎捻挫以降症状の増悪を自覚していた。

【評価とリーズニング】
評価には排尿日誌、Overactive Bladder Symptom Score(以下OABSS)、International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(以下ICIQ-SF)、呼吸のしやすさと骨盤底筋収縮・弛緩感覚の10段階自己評価を用いた。また、Fascial Manipulation®(以下FM®)の動作テストおよび触診を実施し、浅筋膜の滑走性低下および深筋膜の高密度化部位を評価した。排尿日誌より、誘因のない焦燥感に続く尿意切迫感を認めた。また、尿意を感じると呼吸停止、全身の過緊張および腹圧上昇を認め、自発的な動作が困難となった。骨盤底筋の認識は乏しく、腹筋、臀筋群および内転筋群による代償収縮を認め、呼吸との協調は困難であった。右重度足関節捻挫と交通事故の既往、症状増悪時期を踏まえ、足部からの上行性影響と顔面・頸部の筋膜高密度化が身体認識および呼吸・骨盤底筋の協調性低下を招き、防御的運動戦略の固定化に関与していると考えた。

【介入内容と結果】
FM®の評価と既往歴を踏まえ、浅筋膜の滑走性低下ならびに足部、体幹、頸部・顔面の深筋膜高密度化部位へ介入した。また、呼吸練習、腹横筋・骨盤底筋エクササイズを段階的に実施した(週1回、8週間)。介入後、まず呼気が容易となり脱力を獲得した。続いて腹横筋の収縮が可能となり、骨盤底筋の認識が明瞭となった。その後、尿意時にも深呼吸による自己調整が可能となり、昼間排尿回数は9回から5回、夜間排尿回数は1回から0回、切迫性尿失禁頻度は3~4回/日から0回/日へ改善した。OABSSは11点から2点、ICIQ-SFは18点から5点へ改善し、呼吸は3から8、骨盤底筋収縮・弛緩感覚は2から8へ改善した。

【考察】
尿意時に呼吸停止と全身の過緊張を伴う防御的運動戦略が形成されていた。FM®介入後は呼吸機能の改善と脱力の獲得、その後腹横筋の収縮・骨盤底筋の認識が向上し、尿症状の改善を認めた。呼吸機能の改善に伴う腹横筋活動性と骨盤底筋認識の向上が、運動制御の変化を介して防御的運動戦略を修正し、尿症状の軽減に寄与した可能性が考えられた。一方、薬物療法や心理的介入、運動療法の影響を完全には除外できず、結果の解釈には慎重を要する。

【倫理的配慮、説明と同意】
本発表はヘルシンキ宣言に基づき作成した。対象者には発表の趣旨を十分説明し、個人が特定されないよう配慮した上で書面による同意を得た。