講演情報

[KO4-03]右頭頂葉・側頭葉出血により多感覚統合破綻と起居・移乗時に恐怖心を呈した症例への理学療法アプローチ

*佐藤 健太1、村松 永陽1,2、山口 祐太郎1 (1. 脳神経リハビリ北大路病院、2. 藤田医科大学)

キーワード:

転倒恐怖心、多感覚統合、半側空間無視

【症例紹介】
右頭頂葉・側頭葉出血を呈した80代女性である.MRI所見では右下頭頂小葉,島皮質後部,上・中側頭回に病変を認めた.評価上,左上下肢の運動麻痺,感覚障害は認めなかったが入院初期より動作時に強い恐怖心と身体の過緊張,しがみつきが顕著で離床の阻害因子となっていた.

【評価とリーズニング】
初期評価時,左身体失認様の症状とCatherine Bergego Scale(以下,CBS)15点と中等度以上の左半側空間無視を認めた.静止保持における姿勢傾斜は認めなかったが,姿勢変換時には後方への過剰な突っ張りとしがみつきを伴う強い防衛反応と転倒恐怖を認め,立位保持や歩行は困難で強制介助に強く抵抗した.その一方,介助下で立位を形成した後,明確な目標を提示した着座動作のみ非介助での遂行が可能であった.本症例の恐怖心と動作困難は,背側視覚経路の対象物と自己の空間認知,頭頂・側頭接合部,下頭頂小葉および上縦束Ⅱを含むネットワークの注意定位,島皮質後部の安全・不快信号の識別不全の障害が主因と考えた.これら多感覚統合の破綻による空間への恐怖心は,姿勢変換時に島皮質後部,扁桃体を介し拒絶反応を誘発したと考えた.しかし着座時は損傷を免れた上頭頂小葉の機能により,対象物に身体を能動的に適合させることが可能であったと考えた.

【介入内容と結果】
直接的な中心後回の損傷を免れていたため体性感覚入力を主軸とした.起居は背部への身体密着,起立は後方からの体幹前傾誘導により遂行可能なことが多く不快刺激入力を防ぐため介助方法をスタッフ間で統一し動作学習を促した.また壁面との接触による立位保持,右から左へ距離を広げるキャッチボールを実施し,空間に対する自己定位の認知を促した.結果, 恐怖心や抵抗感は軽減し,入院1ヶ月半でCBSは15点と変化は認めないが起居,移乗動作は口頭指示で可能となった.

【考察】
仮説として立てた多感覚統合の破綻という視点は,以下の介入結果によって支持された.統一した介助は不快刺激による扁桃体の過興奮を抑制し,恐怖心を鎮め,動作学習を図る上で重要であったと考える.また壁面に接触した立位保持は体性感覚への重みづけのシフトを促し,損傷した空間知覚に頼らず体性感覚を用いた姿勢の安定性を補う代償基準となったと考える.さらにキャッチボールは残存する上頭頂小葉を駆動させ,遠位空間への能動的な運動の積み重ねが空間への恐怖心を軽減し,環境へ適応した動作獲得に寄与したと考える.CBSに変化を認めなかった事は空間無視自体の改善ではなく,不快刺激を排除した環境下での代償戦略が機能した結果を示唆すると考える.体性感覚情報をもとに能動的な運動参加を促したことで恐怖反応を軽減し動作遂行への運動学習を導いたと考えられる.本症例の経過と結果は病態特性に応じた多感覚統合アプローチの有効性を示唆していると考える.

【倫理的配慮、説明と同意】
本報告の作成にあたり,個人が特定されないよう配慮・説明し同意を得た.