講演情報

[JEL2-01]変形性膝関節症に対する徒手理学療法瓜谷 大輔

(畿央大学大学院健康科学研究科)
<学歴>
2000年 神戸大学医学部保健学科理学療法学専攻卒業
2009年 University of St.Augustine, Master of Health Science修了
2013年 兵庫医科大学大学院医学研究科博士後期課程修了
<職歴>
2000年 医療法人祐生会みどりヶ丘病院 リハビリテーション部
2004年 大阪医療福祉専門学校理学療法士学科
2007年 畿央大学健康科学部理学療法学科
2017年 The University of Melbourne, Visiting Researcher
現在 畿央大学大学院健康科学研究科教授
<関連資格>
専門理学療法士(運動器、スポーツ、予防) 認定理学療法士(徒手理学療法) マリガンコンセプト認定セラピスト
<学術研究業績>
2015年 WCPT2015 Early Career Researcher Award
2015年 運動器の10年日本賞 優秀賞
2021年 第9回日本運動器理学療法学会学術大会徒手理学療法部門優秀賞
2022年 第10回日本筋骨格系徒手理学療法研究会学術大会 優秀賞
<関連領域社会活動>
運動器理学療法学編集委員、筋骨格系徒手理学療法学編集委員
変形性膝関節症(以下、膝OA)は高齢化社会を迎えた本邦において、要支援原因の上位に位置する関節疾患の中でも特に有病者数が多く、疼痛や身体機能障害を主訴として理学療法の主要な対象疾患となっている(Hunter & Bierma-Zeinstra, 2019)。近年、膝OAの病態理解は大きく進展しており、関節軟骨の変性のみならず、滑膜炎や関節包・筋などの末梢組織、関節荷重や筋機能といったバイオメカニクス的要因、さらには中枢神経系における痛覚過敏や中枢性感作などの関与が明らかとなっている(Neogi et al., 2014;Arendt-Nielsen et al., 2014)。また、恐怖回避思考や運動恐怖などの心理・社会的因子が疼痛や活動制限に影響を及ぼすことも報告されており、膝OAは多因子的な病態として捉える必要がある(Bunzli et al., 2017)。
 World PhysiotherapyのサブグループであるInternational Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists(IFOMPT、国際整形徒手理学療法士連盟)は、「徒手理学療法」を関節モビライゼーション等の徒手的な技術による治療手段に限定したものではなく、「徒手的な技術と治療的な運動を含む高度に特異的な治療アプローチを用いた、臨床推論に基づく、神経筋骨格系の状態をマネジメントするための理学療法の専門領域」と定義している。
 膝OAに対する理学療法では運動療法を中心とした介入が各国のガイドラインで推奨されている。近年の報告では、徒手的な技術による治療は運動療法と併用されることで、短期的な疼痛軽減や身体機能改善に対して一定の上乗せ効果を示す可能性が報告されている(Runge et al., 2022)。一方で、徒手的な技術による治療手段の単独効果や長期的な有効性については研究間で結果のばらつきが大きく、一貫した結論には至っていない(Tsokanos et al., 2021)。これらの知見は、徒手的な技術を膝OA治療の「主軸」として用いるのではなく、病態や介入目的に応じて適切に位置づける必要性を示唆している。イギリスのNICEガイドラインでは、徒手的な技術は運動療法と併用する場合に検討される介入として位置づけられており、単独介入としての使用は推奨されていない(NICE, 2022)。
 本講演では、末梢組織、中枢神経系、心理・社会的因子を含めた多角的な病態理解を基盤として、我々の研究成果も紹介しながら、IFOMPTの定義する「徒手理学療法」の膝OA患者に対する効果を再整理する。徒手的な治療技術だけではなく、運動療法や患者教育等を含めた患者の行動変容を促すための視点を提示し、膝OA患者の病態を包括的に考慮した理学療法実践を再考する機会としたい。