講演情報

[JP-09]患者立脚肩関節評価法と心理社会的評価を用いて経過を追跡した弾発肩甲骨の一症例

*石渕 重充1、笹川 郁2、小林 弘幸2、松田 俊彦1、西澤 岳1、我妻 浩二3、多嶋 佳孝1 (1. 整形メディカルプラザ、2. メディカルベース新小岩、3. 靭生会本部)

キーワード:

弾発肩甲骨、患者立脚、自己効力感

【症例紹介】
症例は74歳の女性で左肩甲骨周囲の疼痛および肩関節挙上時に肩甲骨内側縁周囲で弾発を認め、「痛みよりもゴリゴリした音が気になる」と訴えていた。介入期間は2025年11月20日から2026年1月15日までの短期間であった。
【評価とリーズニング】
初期評価では肩関節挙上時に肩甲骨内側縁周囲で弾発を認めた。MMTでは僧帽筋3、肩甲下筋3~4、前鋸筋4の筋力低下を認めた。患者立脚肩関節評価法(Shoulder36:Sh36)は、疼痛20/24点、可動域31/36点、筋力19/24点、健康感18/24点、日常生活機能24/28点、スポーツ能力6/8点であり、疼痛、肩関節機能および日常生活機能の低下を認めた。また、Pain Catastrophizing Scale(PCS)は33点であり、破局的思考が強いとされる30点以上であった。Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)は32点であり、自己効力感の指標とされる40点を下回っていた。以上より、肩甲骨周囲筋の機能低下に伴う肩甲胸郭関節の滑走不全が弾発の一因となり、症状の持続が身体機能低下に加えて疼痛に対する破局的思考や自己効力感に関与していると考えた。
【介入内容と結果】
肩甲骨周囲筋の機能改善を目的に前鋸筋や僧帽筋を中心とした筋力強化に加え、肩甲骨上方回旋を徒手的に介助した肩甲胸郭関節の協調運動を実施した。また、Sh36、PCS、PSEQの評価結果を患者と共有し、身体機能および心理面の変化を可視化しながら介入を進めた。介入によって患者の訴えは「ゴリゴリした音が減り、腕を上げる動作が楽になった」となった。MMTは僧帽筋3→4、肩甲下筋3~4→4、前鋸筋4→5へ改善した。Sh36は疼痛24/24点、可動域36/36点、筋力23/24点、健康感22/24点、日常生活機能28/28点、スポーツ能力7/8点へ改善し、36項目中21項目で改善を認め、悪化項目は認めなかった。PCSは33点から26点へ低下し破局的思考が軽減した。PSEQは32点から36点へ上昇し、活動維持が良好に期待できるとされる40点には到達しなかったものの、痛みに対する自己効力感の向上を認めた。
【考察】
本症例では、肩甲骨周囲筋の筋機能改善と肩甲胸郭関節の協調運動の再獲得により肩関節挙上時の肩甲骨運動が安定し、弾発および疼痛の軽減が日常生活機能の改善につながったと考えられた。また、Sh36の改善に加え、PCSの低下およびPSEQの上昇を認めたことから、身体機能の改善が疼痛に対する否定的思考の軽減や自己効力感の向上にも寄与したことが示唆された。さらに、患者立脚評価および心理社会的評価を併用することで、身体機能だけでは捉えにくい症状改善過程を多面的に評価することができ、評価結果を患者と共有することで自身の回復過程を客観的に認識し、運動への理解や治療参加意欲の向上につながった可能性がある。本症例は患者立脚評価および心理社会的評価を活用した情報共有が症状改善に寄与した可能性が示唆された。
【倫理的配慮、説明と同意】
本症例には目的、得られたデータの利用について十分な説明を行い、同意を得た。