講演情報

[KOSY1_01]過渡期を迎えた臨床実習の現状と課題—『経験』から『専門性の探究』への質的転換を目指して—

牧 勝広 (京都医健専門学校 理学療法科)
略歴(主な学歴・職歴)
2006年 国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター附属リハビリテーション学院 理学療法科 卒業
2006年 千里リハビリテーション病院  入職
2016年 京都医健専門学校 理学療法科 入職
関連資格
2017年 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士養成施設教員等講習会 修了
関連領域社会活動
2024年〜 一般社団法人 京都府理学療法士会 理事
理学療法教育における臨床実習は、近年大きな構造的転換を遂げてきた。かつての「症例担当型実習」において問題視されていた過剰な課題量や徹夜によるレポート作成、ハラスメントリスクに対して、指定規則改訂などを背景に「診療参加型実習」への移行が進められた。臨床実習指導者講習会の普及により、学生の肉体的・精神的負担は着実に軽減され、実習環境の安全化と平準化が図られたことは大きな成果である。
しかし、この成果の一方で、理学療法士としての「専門性」や「深い臨床思考」の育成という教育の本質において、新たな課題が顕在化している。第一に、リスク管理や個人情報保護の観点から、学生の関わりが見学主体となり、臨床における実感や手技の実践機会が不足する傾向が生じる可能性がある。第二に、検査や介入の作業手順への参加にとどまり、なぜその評価を行い、結果からどう臨床推論を展開するかという思考プロセスを深掘りできない「思考の空洞化」である。第三に、平均在院日数の短縮等により、一人の患者の経過を追う線での学びが得にくい「学びの断片化」である。
こうした状況は、個人の努力不足ではなく関係三者が抱える構造的ジレンマに起因する。養成校は学生の多様化に伴う個別サポート負荷が増大し、臨床施設は業務効率化とリスク管理の中で思考指導の時間を十分に確保できていない可能性もある。さらに学生自身も、失敗への不安から受け身になりやすく、自ら問いを立てる自己効力感を持ちにくい。学校・施設・学生のそれぞれが抱える制約と不安が、この構造的な課題を生み出している。
理学療法の「専門性」を育むとは、単に作業を模倣することではなく、「自ら臨床上の問いを立て、根拠を探索し、検証と省察を繰り返して自己の臨床思考を更新し続けられる力」を培うことである。そのためには、従来の過剰負担に逆もどりさせることのない形で、EBP(科学的根拠に基づく臨床)のプロセスを体得する「探究型の症例研究」に、実習生として学生の内に早期に参加することが有効であると考える。臨床施設が生の臨床の問いを提供し、養成校が文献検索や論理的考察の伴走を担う対等な連携体制の構築こそが、学生を未来の同僚として共に育てるキーとなる。本講演では、これまでの実習の歩みと現状の課題を整理し、本シンポジウムのメインテーマである養成校・施設間連携による症例研究の実践に向けた課題提起を行う。