講演情報

[KP_01]第2腰椎分離症の大学野球投手に対し 胸椎・肩甲帯可動性向上と体幹スタビリティ強化が奏効した一症例

*福島 康晴1 (1. JCHO京都鞍馬口医療センター)

キーワード:

腰椎分離症、野球、運動連鎖

【症例紹介】 21歳男性、大学硬式野球部投手(右投右打)。X年Y月より左腰部痛を自覚し安静にて改善したが、その後右腰部痛が出現。Y+2月の前医MRIにてL2右腰椎分離症を指摘され、Y+3月に当院受診となった。初診時、安静時痛や感覚異常は認めず、右L3付近に軽度の圧痛を認めた。CTにて右L2椎弓は比較的新鮮、左L2椎弓は陳旧性分離所見を呈し、年齢や経過から骨癒合は困難と診断された。医師より高負荷のウエイトトレーニングは禁止され、自重での体幹・股関節・肩甲帯のコーディネーショントレーニングの指示を受け、Y+3月Z日より理学療法を開始した。
【評価とリーズニング】 初期評価時、体幹回旋可動域は左70°に対し右40°と低下し、右回旋時に右腰部痛を認めた。SLRは両側90°、L2棘突起の圧痛は陰性であったが、L2レベルの右胸腰筋膜に圧痛と運動時痛を認めた。投球動作では早期コッキング期のフットプラント(FP)時に同筋膜の短縮時痛(再現痛)が生じた。両足レッグレイズ動作時には下部体幹の動揺が見られ、体幹深層筋(腹直筋下腹部、腹横筋)による安定性の低下がみられた。 本症例の痛みの起源は胸腰筋膜であり、その要因として、①胸椎右回旋および右肩甲胸郭関節内転の可動域低下、②体幹深層筋の筋力低下が明確となった。これらにより、早期コッキング期のFP時に必要な体幹回旋・伸展運動を胸郭・肩甲帯で補えず、腰椎右回旋による過剰な代償動作を招いたことで、同筋膜への過度な伸長ストレスが引き起こされたとリーズニングした。
【介入内容と結果】 介入では、胸椎右回旋および右肩甲胸郭関節内転の可動性改善を目的に、Trunk rotation with tubeや四つ這いでのテイクバック運動を実施した。また、体幹スタビリティの向上と腰椎の過回旋代償を抑制するため、Pallof press isometric holdによる腹直筋下腹部、腹横筋、内・外腹斜筋の強化を推進した。介入7日後の最終評価では、体幹右回旋可動域が70°に改善し、右胸腰筋膜の圧痛および体幹右回旋時痛は消失した。さらに、シャドウピッチング時における早期コッキング期FP時の右腰部痛も完全に消失した。
【考察】 本症例は、隣接する胸椎や肩甲胸郭関節の可動性改善、および体幹深層筋の機能向上により、腰椎での過剰な回旋代償が抑制され、早期コッキング期の右腰部痛消失に至った。しかし、主治医より投球・打撃動作は制限されている段階であり、現在は次のステップである走行動作(ジョギング)への移行期にある。対象者より「走る際にも右腰部痛がある」との訴えが聞かれており、これは走行時の骨盤と胸郭のカウンター回旋において、未だ腰椎での代償的運動が生じている可能性を示唆している。今後は完全な競技復帰に向け、走行時の運動連鎖およびバイオメカニクス的評価を進め、動的環境下での体幹スタビリティ強化を継続していく必要がある。
【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対し、本報告の趣旨および目的を口頭と書面にて説明し、個人が特定されない形で学会や学術誌へ公表することについて同意を得た。